プラスチック爆弾 (from 愛をください)
僕、思うんですよ。
何で、あの二人はいつまで経ってもよそよそしいんだろうって。



ねえ、悟浄、聞いてます?



昨日、悟空の体調が思わしくないって、三蔵の所の執事さんに連絡をもらったんです。
で、大急ぎで仕事を片付けて行ってみれば、もう見るからに不機嫌なそのくせ瞳が心配で曇った三蔵が、出迎えてくれたんです。
僕、びっくりしちゃいました。

「悟空の様子は?」

って訊いたら、熱が昨日の夜から出て、今朝は吐いたって、それは心配そうに三蔵が答えるんです。
あの、三蔵がですよ。
僕、自分の耳を疑っちゃいましたよ。

悟空の部屋へ行ってみれば、悟空は悟空で相変わらず細い身体を無理にベットに起こして、僕を迎えて笑ってくれたんです。

もう、なんて健気で可愛いんでしょう。
抱きしめて、頬ずりしてあげたいほどだったんです。

「大丈夫ですか?」

って傍に寄ったら、悟空は大丈夫だと、苦しそうな呼吸と青い顔色で頷くんですよ。
で、僕の傍に三蔵が来たら、もっと元気そうに笑って、

「さんぞ、俺、大丈夫だから、仕事して…」

と言うんです。
その姿に、三蔵は不機嫌な顔のまま、そうかって言って、

「後は、頼む」

何て、仕事に行っちゃうんですよ。
さして、忙しくもない道楽な仕事に。

僕が呆れたような、怒った顔で三蔵の背中を見ていたのに気が付いた悟空が、僕のジャケットを引っ張ったんです。
何事かと振り返った僕に、悟空は今にも消えそうな儚げな笑顔を浮かべて、見上げてきました。

「…八戒、あの…怒らないで。三蔵、今、仕事が忙しいんだって。だから…あの…」
「大丈夫、もう怒ってませんよ」

心配そうな悟空に頷いてあげると、ほっと安心したのか、悟空はベットに倒れ込んでしまいました。
悟空の熱は思った以上に高くて、風邪を拗らせかけていました。
聞けば、三蔵に迷惑を掛けたくないからと、ずいぶんと苦しいのを我慢していたようで、そんな悟空に呆れるやら悲しいやら、何とも言えない気持ちがしました。
僕は薬を枕元に置いて、軽い睡眠薬の入った解熱剤を悟空に注射してあげました。

「これで熱が下がりますから、気分も楽になりますよ」
「…うん。ありがとう」

そう言って笑顔を浮かべる悟空に、

「我慢なんてしないで、もっと三蔵に我が侭言って、甘えていいんですよ」

って、僕、言っちゃったんです。
そしたら悟空は泣きそうな顔になって、言っちゃいけないこと言ったらしいって気が付きました。
でも、今更、口に出してしまった言葉が取り消せるわけもなく、どうしようかと思っていたら、

「…ここに住まわせてくれるだけで、幸せだから…俺、それだけで嬉しいから……ありがと、八戒。心配かけてごめんなさい…」

泣きそうな声が聞こえました。

「ごめんなさい、悟空…」

謝る僕の声に悟空は緩く首を振って、もう一度「ありがとう」と言って、眠ってしまいました。
その姿に、僕はなんだか悟空にいつまでも気を遣わせている三蔵に腹が立って、三蔵の仕事部屋に文句の一つでも言ってやろうと思って行ったら、部屋に居なかったんですよ。
どこに行ったのかと、丁度部屋に書類を取りに来た執事さんに尋ねたら、悟空の部屋に行ったって言うじゃないですか。
慌てて部屋へ戻ってみれば・・・・・。



あんな三蔵、初めて見ました。



眠る悟空の髪をゆっくりと撫でながら、小さく歌を歌ってるんです。
あれは、三蔵のお母様がよく歌っていた歌でした。
その姿を見て、何て不器用なんだと、腹が立つよりも呆れてしまいました。

これほどにお互いのことを思っているくせに、一歩が踏み出せない二人に、イライラします。

ねえ、悟浄、こう悟空と三蔵の想いに卵ぐらいの大きさのプラスチック爆弾を貼り付けて、そこから僕の手元に導火線をひっぱってくるんです。
そして、せえので火を付けて爆発させたら二人の想いが混じり合って、もっと、素直になるかも知れませんね。

やってみましょうか?
えっ、命が惜しくないのかですって?

リスクがあってこその楽しみですって。

でもね、本当にあの二人には、幸せになって欲しいんですよ。
ねえ、貴方もそう思うでしょ、悟浄・・・。




リクエスト:「愛をください」の三蔵と悟空の進展しない二人の様子を八戒視点のお話で
180180Hit ありがとうございます。
謹んで、みつまめ様に捧げます。
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