墓碑銘 (from Gap) |
白い大輪のカサブランカの花束を抱えて、悟空は墓地の坂道を上る。 初夏の陽ざしを浴びて、足下に黒々とした影が伸びる。 前を行く小柄な背中を見つめながら、三蔵は苛つきを押さえられないでいた。
向かっている墓地には、三蔵のオリジナルが悟空の両親と共に眠っている。
三蔵が生まれたその日、三蔵の身体から生まれた自分。 最後にオリジナルを見たのは、何時だったか。
「同じなのに、全然違う…んだ」
何かの折り、そう悟空は呟いていた。 自分はオリジナルほどには、悟空に優しくできない。 本物の悟空に出逢い、その存在の重さ、愛しさに三蔵は、瞬く間に虜になった。 そんな三蔵の想いは、まだ悟空には届かない。 白い墓標の前で、静かに額ずく悟空から、白い墓標に三蔵は視線を移した。 悟空を庇って死んだ三蔵。 完全に自分の思考に嵌り込んでいた三蔵は、その腕を掴まれてようやく我に返った。 「何だ?」 慌てて取り繕うように問えば、 「…帰る」 ふいっと、怒った仕草で顔を逸らし、来た道を悟空は足早に戻り始めた。 「おい、悟空」 慌てて後を追えば、 「ちゃんと傍に居ろよな」 と、背中越しに声が聞こえた。 |