お出かけ

朝、目が覚めた悟空は寝台の上に身体を起こしたまま、たっぷりと5分は動けずにいた。
そして、めまぐるしく目の前に繰り広げられている現実を把握すべく、寝ぼけた脳味噌が働き出す。



夢…見てる訳じゃなさそう……



こしこしと可愛い握り拳で何度も目を擦り、丸いマシュマロのような頬を自分で抓ってみたり、叩いてみたり。



夢じゃないんだ…



頬の痛みに何とか、現実だと認識できても、目の前の情景はにわかには信じられない。
だが、悟空が起きたことなど気付かずに、事は大詰めを迎えたようだった。

一体、何がどうなると、目の前の様な状態に金蝉がなるのか。

傍らに立つ捲簾が、にやにやと面白そうな笑顔を浮かべていた。
反対側に立った天蓬は、実に楽しそうな笑顔で輝いていた。
そして、誰よりもこの状況を楽しみ、喜んで顔を輝かしている観世音菩薩が、腕を組み己の仕事に満足な笑顔で見つめていた。
金蝉のいつもの白い洋服を持った二郎神が、困ったような気の毒なような何とも複雑な、それでいて憐れみの籠もった瞳で悟空に背中を向けている金蝉を見ている。

悟空は堪らずに背中を向けた金蝉に声をかけた。

「金蝉?」

その声に皆が一斉に振り返り、悟空は思わずその身を竦ませた。

「起きたのか、チビ」

観世音菩薩が、悟空の顔を覗き込む。
それに頷いた悟空に、満足そうに観世音菩薩は笑うと、

「金蝉と下界で遊んでこい」

そう言って、悟空の目の前に人が着る薄い緑の無地のシャツと濃紺のGパンをはいて、長い金糸をいつもの高さより低い位置で緩く束ねた金蝉を突きだした。

「何しやがる、ババアっ」

白皙の美貌を桜色に染めた金蝉が悪態を吐く。
悟空は見慣れぬ金蝉の格好に金眼を見開いた後、零れるような笑顔を浮かべたのだった。



その日、それは綺麗な親子にも恋人にも見える二人連れが、地上に居たとか、居なかったとか。




end

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