one day of life 〜笙 玄〜 |
私の一日でございますか? 私は、朝四時に起きます。 他の修行僧達も、同じ午前四時に起床いたしますので、皆と何ら変わることは有りません。 それがすんだら朝の掃除です。 私も皆の末席にて、お勤めに参加致しますが、三蔵様は毎月、月初めと月末、節季の日と祭礼の日にお勤めをなさいますので、普段のお勤めにはご出席にはなられません。 お勤めの後は、朝餉の支度に取りかかります。 三蔵様は、悟空とは反対に食の細い方で、もう少したくさん召し上がって頂けると、良いのにといつも思ってしまいます。 悟空は、三蔵様と一緒に食事をするときもあれば、三蔵様がご出仕の後で起き出してきて、私と一緒の時や一人の時など、その日によって違いますが、極力三蔵様と一緒に食べられるようにと頑張っています。 その姿は健気で、可愛らしいですよ。 あ、たまにではあるのですが、寝室に食事を運ぶことがあります。
あ、これは内緒ですよ。
朝餉を済ませた後、三蔵様の身支度をお手伝い致します。 朝餉の片づけの後、寝所の掃除、三蔵様の衣類と悟空の衣類などの洗濯をします。 後は、細々とした片付けものをして三蔵様のご公務のお手伝いを致します。 執務室にお客様が滅多にお出でになることはなく、いつも静かではあるのですが、雨の日や三蔵様のご様子がおかしな時は、必ず悟空が執務室で遊んでいます。 日頃、ペットだ、邪魔だ、と邪険に悟空を扱われる三蔵様ですし、悟空は悟空で三蔵様のことをハゲだ、タレ目だ、暴力坊主だとか、畏れ多いことを言いますが、本当にお互いが必要なときがちゃんとわかっていらっしゃるんでしょうね、そう言うときはお二人で、寄り添っていらっしゃいます。 っていっても、身体ではなく、心なので、いらぬ誤解はなさらないでくださいね。 ご公務のお手伝いの途中でも、昼餉の支度に厨に向かいます。
ええ、三蔵様はご自分で意識なさらないところで、悟空を甘やかしておられます。
昼餉は、悟空が私と一緒にいつも摂り、三蔵様は、ご公務のきりの良いところでお摂りになります。 三蔵様は、普段から表情のお変わりにならないお方なのですが、そのお心はとても深く、お優しいのです。
三蔵様が、ご公務の間の悟空ですか?
悟空は、寺院の裏山でいつも遊んでいたり、たまに私が掃除や洗濯をしている姿を興味深そうに付いて回って見たりと、気ままにあちらこちらで遊んでいますが、大抵は、朝餉の後から昼餉まで、昼餉から夕餉まで、それはもう泥だらけになって外で遊んでいるようです。 たまに、野良犬や野良猫、小鳥や森の獣を拾ってきてはひと騒動を起こし、三蔵様にハリセン付きの手痛いお説教をもらっていることもあります。 他の修行僧達は、下賤の輩だ、不浄な物の怪だと悟空を嫌い、蔑んでいますが、あの子は誰よりも純粋でまっすぐで、まるで太陽のように煌めいた魂を持った子供なんです。 三蔵様から悟空は、仙石から生まれた大地母神が愛し子だと以前教えていただいたのですが、日頃の悟空の言動を見たり、聴いたりすると確かに頷けるものがあります。 そんな悟空を見つめていらっしゃる時の三蔵様は、それはもうお優しい眼差しで、いつもの不機嫌なお顔が嘘のようにお美しいのです。 あ、でも、こんな事が三蔵様に知れたら、もれなく三蔵様ご愛用の拳銃の鉛玉が飛んできます。
三蔵様のご公務ですか?
それは、寺院内の様々な許認可事項の書類に判を押されたり、国中から届けられる書簡に目を通され、それぞれに相応しいお返事を書かれたりと、デスクワークが多ございます。 三蔵様は、公の場にお出ましになられることは滅多にございません。 ですから、三蔵様が信者の方々に直接説法される日などは、ひと目そのお姿を見ようとものすごい人出になるんです。
ええ、怖いですよ、三蔵様は。
三仏神様からのご下命をお受けになった際のお仕事には、お一人でお出かけになることがほとんどです。 あ、説法の時や体裁を繕わなければならないときは、お供させていただくんですよ。
夕方になりますと、夕餉の支度に始まる雑多な仕事があります。 夕餉は一汁三菜を基本に作ります。 三蔵様と悟空は必ず一緒に夕餉を摂られ、その時、悟空は嬉しそうに今日一日のお話を三蔵様に話すんですよ。 一日の内で一番和やかな時間かもしれません。 私は、夕餉の後かたづけの後は、自室に下がって、一応ここで私の仕事は終わります。 三蔵様のご公務が立て込んでお忙しい時は、私が悟空の夕餉にお付き合いするのですが、三蔵様がいらっしゃるときほど悟空は話をしてくれません。
悟空にそう言う顔をさせる三蔵様ってどういう方ですって?
お姿はそれはお美しい方で、神々しささえ感じるほどのです。 でも、私より三蔵様のお心に敏感なのは悟空です。 ただ、少々お気の短い所と、お口の悪い所、すぐハリセンか鉛の玉が飛んでくるところが困った所でございます。
悟空ですか?
先ほども申し上げました通り、それは純粋でまっすぐな子供です。 「あいつの方が、太陽だな」 そうおっしゃっていた通り、私もあの子は太陽だと思います。 何者にも遮られることのない明るい日差しの日向のような心を持った存在です。 私が悟空と初めて会ったとき、酷く私のような存在に怯えていました。
え、どうやって悟空と仲良くなったかですって?
それは、内緒です。 三蔵様と悟空のお二人は、私にとって大切な存在です。
はい、今のこの仕事は、私の誇りです。
お分かり頂けました? こんなところでもう、よろしいですか? そろそろ昼餉の用意をしなくてはなりませんので、これで失礼いたします。
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