one day of life 〜三 蔵〜

俺の一日だと?

何でそんなこと話さなきゃなんねえんだ?
笙玄と悟空に聞きゃあいいだろうが。

もう聞いたから、イイって・・・っつたく。




朝、何時に起きるだ?




六時には起きてるよ。




何してるかって?




顔洗って、着替えて、新聞読んでるな。

飯は、笙玄が作ったのを食べて、仕事に行く。
たまに猿が、早起きして一緒に食べるが、大抵は一人で食べる。




仕事は、うぜえ。




てめえ達で決められることまで、俺に持ってくる。
よけいな仕事は極力したくねえのに、持ってきやがる。
会いたくもない客に会って、やりたくもない説法を説いて、何やってんだか。

お師匠様が下さった”三蔵”だから、こうして義務は果たしてるが、でなきゃとっと聖天経文を捜しにこんな所出っててるよ。
だが、こんな所でも情報は集まるから、行方を捜すには丁度いいんだよ。




三仏神の命令は、面倒くさいが、これには逆らえない。




逆らえないと言えば、側係の笙玄の言うことにも逆らえない。
あいつは、にこにこと害のない顔をして、こっちが逆らえないように話を持っていきやがる。
この間知り合った、八戒とイイ勝負だと俺は思う。




何の勝負だと?




決まっている。
底意地の悪さだ。

それと、猿、悟空を猫可愛がりするところだ。
ガキを甘やかすとろくなことにはならねえのに、あいつらは悟空を甘やかす。




あれは、俺が五行山で拾った猿だ。

何年も煩く俺を呼んでいた。
見つけてみれば、小汚い猿で、ガキで。
何で連れ出したかなんて、俺が教えて欲しい。
ただ、あの金の瞳を見た瞬間、俺はこいつが懐かしい、と思った。
会ったこともない子供に。

連れて帰れば、妖怪だ、異端の存在だ、不浄だ、下賤の者だと喧しかったが、そう言って悟空を蔑んでる奴らの方がよっぽど卑しい輩に見えたな。

悟空は、ここへ連れてきた当初は、一人になるのを怖がって俺の側を離れようとしなかった。
夜も一人で寝るのを怖がって、人の寝台に潜り込んできてた。
慣れるまで付き合ってやるしかねえから、結構俺も我慢強かったな。




悟空をどう思うかって?




あれは、猿だ。

大地が返せと煩い、大地母神が愛し子。

何の汚れも持たない純粋無垢な魂の存在。
つまんねえ俺の生活に色を付けた存在。

あれは、俺のものだと何度言っても、大地は返せと煩い。
だが、何があっても離すつもりはない。



そういうことだ。



理由?



声が聴こえるんだよ。



初めて聴こえたときは、何を言っているのかわからなかった。
ただ、引き裂かれるような気持ちがして、落ち着かなかった。

拾ってからも声は聴こえる。
聴こえなくなることはない。
いつも俺の何処かで日溜まりのように聴こえている。



それでいいんだよ、それで。



あの猿は、笑ってればいい。
自分の気持ちに素直にそのままに好きに生きていけばいい。
何に囚われる必要もない。

そんなもんだ。




昼飯は、適当だ。

猿の分は笙玄が用意するから気にしていない。




夕飯は、猿との約束だから必ず、一緒に食べてやる。

猿は、昼間にあったことをそれは嬉しそうに話す。
空がどうしたの、風が歌っただの、たわいもないことをそれは嬉しそうに話す。

何がそんなに嬉しいのかわからんが、あいつがそれで良いのなら、それでいい。

仕事が、片づかない日は、猿が寝てからまた、仕事に戻る。
おかげで大概は、明け方になる。
まあ、こんな事は猿が知る必要もねえ。



だから、誰にも言うな、いいな。




休みの日は何してるかって?




あのな、休みなんてなぁ、ねえんだよ。
あったとしても、猿に潰されてろくに休むことなんざ、できゃしねえんだよ。
猿の奴は、俺と居て何が楽しいんだか、こっちが訊きてえよ。




じゃあ、休みなら何がしてぇってか?




何にもしねえ。
一人静かにしてられればいい。
あとは、旨い酒でもあればいいな。




猿の話が多いって?

喧しい。

俺のことなんざ、どうでも良いんだよ。

三蔵だと言ったって、仏道に帰依してるとは言い難い。
何より俺は、神を信じていない。
信じられるのは、自分だけだと言い切れる。

猿のことだってそうだ。
あいつは、自分の意志で俺の側に居る。
嫌になったらいつでも、何処に行っても良いんだよ。
それがあいつの望んだことなら、俺にとやかく言う権利はねえ。




俺の望み?




さあな・・・。

師匠の仇を討ち、聖天経文を取り戻す。
それ以外、昔は無かったな。

今は・・・何もねえな。

ただ、足掻いてるだけだろうさ。




もう、良いだろうが。
猿が、待ってるんだよ。

あいつに約束は守れ、と言ってる手前、破るわけにはいかねえんだよ。
じゃあな。




end

close