one day of life |
寝所の居間の机には、お昼の食事とは思えないほどの量の料理が、所狭しと並んでいた。 そこへ、三蔵法師が愛して止まない小猿が、息を切らして走り込んできた。 「笙玄、三蔵は?」 笙玄の言葉にほっとしたように笑うと、洗面所に走り込んでゆく。 「猿は?」 三蔵は、黙って頷くと、机に付いた。
笙玄は、込み上げる笑いをこらえるために厨に入った。 三蔵も悟空も同じことを言う。 三蔵は、どうでも良いことのように。 言えば、三蔵は怒り、悟空は真っ赤になって否定するだろう。
いつもの光景、いつもの会話。
お茶を入れて居間に戻れば、三蔵の向かいに座った悟空が、幸せそうに満面の笑みを浮かべて食事を始めていた。 三蔵は、呆れた顔をして、悟空の食べっぷりを眺めている。 「・・・んで、裏山で会った白い鹿が、すんげ綺麗なんだ。さんぞ、今度は一緒に見ような。そいつとやっと今日友達になれたから、きっとさんぞとも友達になれるからさ」 気のない返事が、三蔵の口から返る。 「きっとだぜ」 ぷっと膨れる悟空の様子に三蔵は、嫌そうに顔を眇めるが、それ以上は何も言わず、食事を続けた。 しばらくそんな三蔵の様子を窺っていたが、逸れ以上何も言わない三蔵の態度を了解と受け取った悟空は、機嫌を直して食べては話し、話しては食べることを、昼食が終わるまで続けた。 「ごちそうさまでした」 綺麗に机の上の料理は片づいていた。 「笙玄、すんげえ旨かった」 満面の笑みでそう言う悟空に笙玄も優しい笑みで 「ありがとうございます」 と、返せば、悟空の笑顔は大輪の花になる。
今日は、朝から天気もいい。 こんな日はゆっくり二人に食事をしてもらい、心ゆくまで二人の穏やかな時間を過ごして欲しい。 それは、ささやかな願い。 忙しい日々の中で見つけた穏やかな昼下がり。
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