one day of life

寝所の居間の机には、お昼の食事とは思えないほどの量の料理が、所狭しと並んでいた。
そこへ、三蔵法師が愛して止まない小猿が、息を切らして走り込んできた。

「笙玄、三蔵は?」
「まだ、いらっしゃってませんよ」
「よかったぁ」

笙玄の言葉にほっとしたように笑うと、洗面所に走り込んでゆく。
悟空が、洗面所に入ったと同時に三蔵が寝所に戻ってきた。

「猿は?」
「いま、手を洗いに行ってます」

三蔵は、黙って頷くと、机に付いた。




笙玄は、込み上げる笑いをこらえるために厨に入った。

三蔵も悟空も同じことを言う。
お互いにお互いを気にしている。

三蔵は、どうでも良いことのように。
悟空は、親を捜す子供のように。

言えば、三蔵は怒り、悟空は真っ赤になって否定するだろう。



いつもの光景、いつもの会話。



お茶を入れて居間に戻れば、三蔵の向かいに座った悟空が、幸せそうに満面の笑みを浮かべて食事を始めていた。

三蔵は、呆れた顔をして、悟空の食べっぷりを眺めている。

「・・・んで、裏山で会った白い鹿が、すんげ綺麗なんだ。さんぞ、今度は一緒に見ような。そいつとやっと今日友達になれたから、きっとさんぞとも友達になれるからさ」
「ああ」

気のない返事が、三蔵の口から返る。
が、悟空にとっては、気がある無いではなく、返事が返ることの方が重要らしく、返ってきた三蔵の返事に嬉しそうに笑うと、いつ実現するかわからない約束を取り付ける。

「きっとだぜ」
「わかった。わかったから、話すか、食べるかどっちかにしろ」
「ヤダ。こんな事滅多にないから、どっちも止めない」

ぷっと膨れる悟空の様子に三蔵は、嫌そうに顔を眇めるが、それ以上は何も言わず、食事を続けた。

しばらくそんな三蔵の様子を窺っていたが、逸れ以上何も言わない三蔵の態度を了解と受け取った悟空は、機嫌を直して食べては話し、話しては食べることを、昼食が終わるまで続けた。

「ごちそうさまでした」

綺麗に机の上の料理は片づいていた。

「笙玄、すんげえ旨かった」

満面の笑みでそう言う悟空に笙玄も優しい笑みで

「ありがとうございます」

と、返せば、悟空の笑顔は大輪の花になる。
そっと、三蔵を見やれば、こちらも普段では考えられ無いような穏やかな三蔵がいた。




今日は、朝から天気もいい。
季節も穏やかな頃。
三蔵の仕事も珍しく少ない。

こんな日はゆっくり二人に食事をしてもらい、心ゆくまで二人の穏やかな時間を過ごして欲しい。

それは、ささやかな願い。

忙しい日々の中で見つけた穏やかな昼下がり。
変わらぬ笑顔をあなたに。




end

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