お手伝い
寺院の敷地の南端に、寺院で食べる野菜が育てられている畑がある。 その畑の手入れや農作業は修行僧達の仕事の一つだったが、その中に一カ所だけ修行僧の手の入らない場所があった。 「笙玄、こっち側、水まき終わったぞ」 柄杓片手に、悟空が笑った。 「ご苦労様です」 笙玄が指さす先を見つめ、差し出されたカゴを受け取ると、悟空は手に持った柄杓をバケツに投げ入れた。 「悟空が手伝ってくれるようになったら、収穫が上がりましたねぇ」 笙玄は目を細めながらジャガイモを集める悟空の姿を見て頬笑んだ。
悟空は大地の子。 大地に育つモノ全てが、悟空に触れたがる。 だからなのだろう、畑の作物達も悟空のためにたわわに実る。
大地の御子に感謝を捧げなくてはいけませんね
笙玄は、蔓の伸び始めたキュウリに添え木を充てながら嬉しそうに笑った。
「美味しそうだな」 風が悟空の長髪を揺らして、何か話しかけるのか、くすくすと笑いながら話す声が聞こえる。 「ダメだって。還んないって」
大地は悟空に還ってくるようにいつも誘うのだと、以前悟空が話してくれた。
「また、たくさんなってくれよな」 弾む声が聞こえた。 「笙玄!」 立ち上がろうとする笙玄から離れて、悟空は傍らに置いたカゴを持ち上げてみせる。 「たくさん採れましたね」 そう言って笑う笙玄に、悟空も嬉しそうに笑い返した。 「悟空、先に戻っていて下さい。私は道具を片付けてから戻りますから」 頷いて悟空は、収穫した野菜の入った手提げカゴとジャガイモの入ったカゴを持つと、畑の入り口に向かって歩き出した。
悟空は畑の入り口で、ふと呼ばれた気がして振り返った。 目の前には青々と繁る野菜たち。 「…呼んでくれるんだ」 悟空はふわりと笑顔を浮かべた。 「嬉しいけど、俺…一緒に居られないから、ごめんな」 呟くように返された返事に、畑の作物達がざわりと、揺れた。 「でも、大好きだから、大好きだから…ね」 潤んだ瞳を何度か瞬いて、悟空は儚い笑顔を浮かべた。 「…ありがと…」 今度は明るい笑顔を浮かべると、悟空はゆっくりと背中を向けたのだった。
畑を出てすぐ、笙玄が追いついた。 「悟空?」 はにかむようにそう言うと、悟空はもう何も言わなかった。 三蔵の元へ戻る笙玄と悟空の姿を色付き始めた空が、見送っていた。
end |
close |