Re:
もうすぐ冬が終わると言うのに、未だに身に射すような肌寒さを感じて俺は自分を抱くように腕を両手で擦りつけた。 「遅かったな」 低い、通る響きを持った声で、三蔵は俺へと近づいてくる。 「え、三蔵。仕事は?」 と三蔵はすっぱりと答える。 「さぼったの?」 と俺も驚いて思わずそう漏らす。 「さぼった」 にやけてしまう顔にそっと手を当てて隠そうとしてみても、収まる所か益々口元が綻んでしまう。 俺たちがまた再会を交わしたからと言って、何かが変わる訳でもなく、お互いいつもと同じ生活リズムを崩したりはしなかった。 「どうかした?」 俺は横を歩く三蔵に、さり気なさを装って訪ねた。 「偽善ばかりの中にいるのは、案外辛い」 と三蔵は言った。 「だから、本物を見に来た」 目を細めるようにして話を促そうとしたが、三蔵はそれを軽く受け流す。 「興味があるのか?」 三蔵も同じポスターを見上げて、少し眉を細めて呟いた。 「何を信じてるんだろう、って。ちょっと気になった」 三蔵は未だにその看板を見詰めながら、確認するかのように頷く。 「電話番号」 俺は巻いていたマフラーに顔を埋めながら呟いた。 「電話番号、教えて」 前、最後に掛けた電話番号。それがずっと携帯の中に残っているのが辛くて、俺は全てを消していた。 「お前は、番号変えたのか?」 と俺は言ってみる。 「携帯が駄目なら、家だけでも良いし。ほら、仕事で邪魔になるかもしれない。三蔵、忙しいから」 少し早口で言い切れば、三蔵の顔がゆっくりと怒ったような表情を作った。 「今言おうとした事を本気にしてるなら、俺は本気で切れる」 俺は目を大きく見開き、覆っている三蔵の手を引き剥がす。 「切れるって・・・まだ何も言ってないし、それに俺が言おうとしてた事なんて解んないだろ?」 三蔵は、言うと思った、と言いたげな顔を見せると、ひとつため息を吐いて自分のポケットを弄り始めた。 「何?」 今に解る。 「番号、変わってなかったな?」 と俺は放心したような声を漏らす。 「嘘はどっちだ」 でも、妙なところは表に出さない。 「番号」 と三蔵はぶっきら棒に呟く。 「登録しとけ」 俺は急いで後ろポケットから携帯を取り出して画面を開くと、その画面に写った番号に更に目を見開いた。 「言っただろ?」 三蔵はその綺麗な眉を寄せながら、子供に言いつけるような仕草で言った。 「お前は顔に出る」 三蔵なら、当然番号など変えているものだと思っていた。 「信じてた?」 俺から、掛かってくるのかもしれないと。 「信じてなんかいねぇよ」 俺は、と三蔵は乱暴に携帯を閉じて、ポケットに仕舞い込む。 「だた、信頼してた」 そのまま手を絡めるようにして繋ぎ合うと、また俺たちは歩き始めた。 「馬鹿だなぁ」 進めば進むほど、その音楽はよりリアルに伝わってくる。 「良い言われようだな」 俺は話を逸らすように視界に捉えた店に指を指しながら、にっこりと微笑んだ。 「仕事?」 ああ、と三蔵は鬱陶しそうに頷く。 「なら、今日は諦めよう」 俺は足取りを変えて店を出ようとしたのだが、三蔵は無理矢理に押し込むように俺の肩を掴んだ。 「奴らに諦めて貰う」 呆然としていた俺を店内に連れ込むと、案内されるがままに俺たちは一角の席へと案内されていた。 「ほんとにいいの?」 三蔵は正面に腰を降ろすと、メニューを受け取りながら俺を見返す。 「ひとつ、言っといてやる」 俺も店員からメニューを受け取ると、それを開きながら頷いた。 「お前から掛かってくる電話ならいいが、奴らから掛かってくる物は全て邪魔で仕方ない」 と俺は歯を食いしばるように笑って見せた。 「凄く嬉しい」 そうか、と三蔵はまたメニューに視線を落とした。 「後で、キスがしたいんだけど」 と言って見せれば、三蔵はまた視線を上げて俺を見返した。 「嫌でもしてやる」 だか、と三蔵は益々渋るような表情をして、机に肘を付けながら額を押さえた。 「それを今言ってどうする?」 したくても出来ねぇだろ。 「ごめんね」 そう言った俺に、三蔵はまた困ったように眉を顰めたが、気にしちゃいねぇよ。とぶっきら棒に答えた。
2006/2.26 |
『「本当は」「唯」「止まれ止まれ」に続くお話』でした。
リクして下さったmichikoさま、本当にありがとうございました!
突発に書いた100titleの続きものだったのですが、
この話のリクをして下さるとは思ってもいなかったので、リクを頂いた時凄く嬉しかったんです!(笑)
それにしても、この話の三蔵はほんとに悟空が居ないと駄目だなぁ。
リクして頂いた本人さまに限り、お持ち帰りOKになっております。
もちろん、強制ではありませんので・・・。もしよろしければでOkです。
本当に企画にご参加いただきまして、ありがとうございましたーー!
<露 湖 様 作>
露湖さまのサイト「derashine」で8000Hit記念のリクエスト企画に参加させて頂いて書いて頂きました。
露湖さまのサイトで書いていらっしゃる100titleの中の連載もの「本当は」「唯」「止まれ止まれ」の続きが読みたいと
我が儘なリクエストをさせて頂きましたなら、幸せな終わりのお話を書いて頂きました。
最初、別れてしまった二人のその後が気になって、別れても離れてもお互いを思い合って、忘れられない二人の姿にドキドキしていました。
ちゃんと、元通りになるのか心配でしかたなかったんです。
悟空がいない所為で三蔵は不安定だし、悟空は立ち直っているようで少しも立ち直れなくて…。
そんな二人がようやく落ち着くように落ち着いてよかったです。
どちらもお互いがいないと駄目なようで、ひとつの辛い山を越えた二人は、前以上に自然に絆を深めて、前を向いて歩いてゆくんでしょうね。
切なくてでも、暖かくて、優しい素敵なお話をありがとうございました。
リクエストしてよかったです。
ああ、幸せvv