Question
事の始まりはこうだった。
「……おい、大丈夫か」
チョコチョコと走り回っていたので、危ないとは思っていたのだ。 予測にたがわず転んでヒザをすりむいた子供に、手を差し伸べたというのに。 「まぁ、すみません。ほら、こっちいらっしゃい」 慌てた母親がすぐに子供を迎えに来たのだが、 「ヒク、ッ……このおじちゃん、怖い、よぉ」
果たして金蝉は、その言葉に結構傷ついてしまったのであった。
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それ以来金蝉は、 「………おい、俺は怖いのか」
会社の側近にそんな質問をしては、少々物思いにふけるのであった。
「金蝉、金蝉っv」 今日も今日とて、金蝉の養い子がエレベーターを降りると同時に飛びついてきた。 「なぁ金蝉、今日のご飯なにっ?」 忙しなく小さな靴を脱ぎ捨てると、金蝉が靴を脱ぐのを待って足元でぴょこぴょこ飛び上がる。 「………なにがいいんだ」 アレが楽しくて、コレが悲しくて、こんなうれしいことがあったのだと。
嬉しい、だとか。楽しい、だとか。金蝉にだってそれはある。 それらのたいていの感情というものは足元に居たり、自分の背中にくっついていたりする小猿が持ってくるものだ。 いつから始終笑顔のままで、金蝉金蝉と鳴く生き物ぐらいは自分を恐れずに居てくれるだろう。 「おい、悟空」 金色の目をきらきらさせて、金蝉の髪を引っ張って悟空は甘えた。
「俺は怖いか?」
抱き上げられたままの唐突な質問に、きょとん、と金瞳を真ん丸く見開いたまましばらく固まっていたが。
「怖いよ?」 ここはやはり落ち込むべきところだろう。 「だって、そうじゃないと、俺困るんだ」 どうやら落ち込む間に困る方が先であるようだった。 「金蝉、俺、金蝉って俺のこと、ちょっとぐらい好きだと思うんだ」 先の言葉からいったいどう繋がっているのかわからない。 「うん、たぶんちょっとぐらいそうなんだと思う」 今更否定すべくでもない子供のいいように、金蝉はますます紫暗を悩ませる。 「だから、金蝉は怖くないとだめなんだ」 さっぱり理解出来ない。
「だってね、金蝉がだれでも優しくって、怖くなかったら……みんな、金蝉のこと好きになっちゃう。そしたら、金蝉も『好きだ』って云ってくれる人のこと好きになるかもしれないだろ?俺よりその人のこと好きになっちゃうかもしれないでしょ?」 ギュッと金蝉にしがみついてどうにかして誤解を解こうと必死にまくし立てる子供の言葉に、金蝉は絶句し、そして少し笑った。
「金蝉のこと、好きなのは俺だけの方がいいもん」
まったく、とんでもない殺し文句もあったものだ。
「悟空、俺が怖いか?」 「金蝉が?ううん、全然怖くないよ。大好きっv」
決まった。
おしまい☆ |
「が」と「は」には、思いのほか大きな違いがあるものです(笑)
このお話はお持ち帰りフリーとなっています。
(…欲しがる方がいらっしゃるかどうかは謎ですが/苦笑)
お持ち帰りの際は一言いただけるとうれしいです。
<リョウ 様 作>
リョウ様のサイト「晴れの海」のお持ち帰り自由とありましたので、早速もらい受けて来た小説です。
素敵に悩む金蝉が、悟空の一言で立ち直る金蝉が好きです。
綺麗な人が無表情なのは怖いかも知れませんが、眺めて良いのなら遠慮無く見つめていたいです(殴)
この「fateシリーズ」の金蝉の良いお父さんであろうと不器用に頑張る姿と健気に一生懸命なチビ悟空との日常を
本当に柔らかく時に切なくて、私、大好きです。
リョウ様、素敵なお話をありがとうございました。