居場所 |
居場所なんてなかった。 金山寺を旅立って、奪られたものの行方を捜して、ただ宛など無く歩き続けた。 たくさんこの手で葬った。 何処へ行っても、誰と会っても、休まることなど無く。 身を寄せたここでも気持ちは休まるどころか、あの雨の日に植え付けられた棘が苛むばかりで。 だが、あの山の中で聴こえた声のことを考えると、少しだけ気持ちが凪いだ。
声に導かれて辿り着いたそこに居たのは、でっかい金色の目をした子供だった。 殴って、黙らせて、それで終わりにするはずが、結局手元に置くことになって。 いつの間にか居るのが当たり前になって、いつの間にかその笑顔に癒されて、いつの間にかその舌足らずな言葉に絆されて。 この煩い生き物の傍に居ることが心地よくなった。
居場所なんてなかった。 「さんぞ──っ!」 人の姿を見つけて大きく手を振っている猿が見えた。 僅かに口角を上げて笑い、三蔵は丘を駈け上がってくる悟空の姿に紫暗を綻ばせた。 |