居場所
居場所なんてなかった。
金山寺を旅立って、奪られたものの行方を捜して、ただ宛など無く歩き続けた。

たくさんこの手で葬った。
この手はたくさんの血に染まった。

何処へ行っても、誰と会っても、休まることなど無く。

身を寄せたここでも気持ちは休まるどころか、あの雨の日に植え付けられた棘が苛むばかりで。
苛立ちと焦燥が募った。

だが、あの山の中で聴こえた声のことを考えると、少しだけ気持ちが凪いだ。
声なき聲は、あれからか細くずっと、気持ちの片隅で俺を呼んでいた。




声に導かれて辿り着いたそこに居たのは、でっかい金色の目をした子供だった。
無防備に、無遠慮に俺を見上げてきた。
無邪気に、嬉しそうな笑顔を俺に見せた。

殴って、黙らせて、それで終わりにするはずが、結局手元に置くことになって。
傍に置いてみれば、そいつは、喧しい、煩い、騒がしい。
いつも餓えていて、いつも不安げで、そのくせ笑っていた。

いつの間にか居るのが当たり前になって、いつの間にかその笑顔に癒されて、いつの間にかその舌足らずな言葉に絆されて。

この煩い生き物の傍に居ることが心地よくなった。




居場所なんてなかった。
無かったはずなのに、今、ここに。

「さんぞ──っ!」

人の姿を見つけて大きく手を振っている猿が見えた。
こんな天気の良い日は、こんな風に過ごすのも悪くはない。

僅かに口角を上げて笑い、三蔵は丘を駈け上がってくる悟空の姿に紫暗を綻ばせた。

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