眠 る
オレンジ色の常夜灯に浮かぶ寝顔。

金色の髪が柔らかな色に輝いて、伏せた瞼と影を落とす睫毛。
いつも眉間に刻まれているシワはなくて、綺麗な額が見える。

中心には深紅の宝石。

神様に一番近いところにいるという証。
神様に選ばれた証。

不機嫌に結ばれた唇も今は穏やかな曲線を描く。

初めて見た時、本当に太陽が姿を結んだのかと思った。
でも、差し出された手は温かくて、少し乱暴で優しかった。
掛けられた声のぶっきらぼうさと呆れた物言いに、心が温かくなった。

嬉しかった。

山を下りて、初めての夜、信じられなくて、現実味が無くて。
眠って起きたらまた、あそこに戻っているような気がして、眠れなかった。

傍で眠る三蔵の寝顔を見たり、窓の外を見たりしながら一晩過ごした。
朝日が昇って、眠る三蔵を照らす。
その光が眩しかった。

それでもやっぱり、何処か信じられなくて、心はすぐに凍てついた。

そんな俺をちゃんと現実に引き戻して、外に居ることを根気よく教えてくれた。
失くした感覚も気持ちも三蔵が取り戻す手助けをしてくれた。

三蔵は本当に、我慢強く、根気よく。
短気で面倒くさがりの三蔵が。

色々思い出すとおかしい。
笑えてくる。
くすくすと、声を立てずに笑っていたら、三蔵が身じろいだ。
でも、起きなかった。

よかったぁ…

ほっと、ため息を吐いた途端、声を掛けられた。

「こんな夜中まで起きて、何、笑ってやがる」

一瞬、息が止まった。

「あ、いや…な、なんでも…えっと…寝られない…って、あ…目が覚めたって…その……アレ?」

わたわたと言い訳か何だかわからないことを言っていたら、訳が分からなくなって。
そんな俺に三蔵は呆れたようなため息を吐いた。

「バカ猿…」
「ほぇ…」

妙な返事をしたら、益々三蔵は頭を抱えて。

「いいから来い」

そう言って、上掛けをめくってくれた。

「さ、さんぞ?」

滅多にしてくれないお誘いに俺はすぐに動けなくて固まってると、気の短い三蔵が睨んできた。

「嫌なら来るな」
「い、嫌じゃない」

慌てて自分の寝台から飛び降りて三蔵の横へ潜り込んだ。
そして、三蔵の腰に手を回して抱きつくと、三蔵が抱き込んでくれた。

「寝ろ、明日も早い」
「うん…」

とくとくと三蔵の鼓動を聞きながら、目を閉じた。




眠るのが不安だったのはもう思い出せない程の昔。

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