眼 鏡
縁なしの三蔵の眼鏡。
新聞を読む時にだけかける眼鏡。

目が悪いのか、そうでないのか、訊いたことはないけれど、視力が悪いとは思えない。

遠くの標的も、近くの標的もちゃんと当てるし、大きな的も、小さな的もきっちり当てる。
それって、ちゃんと見えてるってことだよな。

新聞上にぽんと置かれた眼鏡を見つめながらそう言ったら、悟浄が、

「あれは遠視だろ」

って、言った。

「遠視?」

わかんなくて聞き返せば、八戒がココアの入ったカップを差し出してくれながら説明してくれた。

「遠くはよく見えて、近くが見にくいことですよ」
「ふうん。でも、三蔵は近くでも遠くでもちゃんと見えてるよ?」
「じゃあ、細かい文字が見にくいのかも知れません」

そう八戒が言ったら、悟浄がぶって吹き出した。
そして、笑い出す。

「何?」

わかんなくてびっくりしていたら、八戒も解ったのか笑い出してしまった。
益々、わかんなくて膨れたら、悟浄が教えてくれた。

「それって老眼…」

言って、また笑い出す。

「老眼?老眼って?」
「ある年齢になると細かい文字が見えにくくなる、目の老化現象のことです」
「ろーか現象?」
「目がジジイになるってことだよ」

八戒の説明を悟浄が簡単にまとめて・・・・・。






煙草を買いに行っていた三蔵が戻ってきた時、

「三蔵って老眼なの?」

って、訊いたらたくさん宿屋の壁に穴が開いて、悟浄が逃げ出して、八戒も買い物へって出て行っちゃった。
俺は納得がいかないから、もう一回訊いたら、三蔵に殴られた。
それもグウで。

「痛いじゃんかぁ…」

あまりの痛さに涙目で睨めば、三蔵は嫌そうに鼻をならして教えてくれた。

「老眼じゃねえし、遠視でもねえ。目が疲れやすいからかけてるだけだ」

って。

眼鏡をかける三蔵も、かけてない三蔵もどっちも綺麗だし、大好きだから俺にとって理由は本当はどうでも良いんだって、言ったらきっとまた、なぐられるんだろうな。

close