目覚め
朝焼けに空が染まる頃、密かな呼ぶ声で目が覚めた。

あの日、聴こえた声なき聲。
硝煙と血の匂い。
鮮やかな緑の梢と木々の間から見えた青い空。

疲れ切った身体にその聲は心地よかった。

何度も死線を潜り、宛のない旅路の中で、聲はささくれた心をほんの少し慰めてくれた。
だが、時折聲は胸を刺した。
哀切な色で。
求める色で。

答える術など持ち合わせなく、己のことで手一杯で求めるモノにしか興味がなかった。
生きることも、死ぬことも、己の身体さえどうでもよかったのだから。

八方ふさがりで、縋る最後の糸と、辿り着いた斜陽殿。
神々の言いぐさにすら、嫌悪しか抱かず、求めるモノのためにその言に従った。

苛む悪夢に心が血を吐き、精神が蝕まれて。
我慢のきかない己の身体を引きずって、逃げるようにまた旅の空へ出た。

聲は柔らかく、いつ果てるとのない哀しみの色に染まって読んでいた。
答えなどないというのに。

「月の魔魅」と例えたバカのお陰で、浮いた足が地に着いた。

聲はまだ、呼んでいた。
儚く、消え入りそうな色に染まって。

地に足が着けば、聲は強く呼ぶ。

導かれて辿る山道。
呼ばれて震える気持ち。

頂きに見えた暗い岩牢に見えた影。
稚い姿に胸が震えた。

差し出した手を掴んだ温もりに、気持ちが綻び、名乗った名前を音のある聲で紡がれて、そうして、ようやく目が覚めた。

悪夢からの覚醒。
暗闇からの脱出。

鮮やかに色付く世界の眩しさに目眩を覚えた。

だから─────

───傍に居ろよ。

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