目覚め |
朝焼けに空が染まる頃、密かな呼ぶ声で目が覚めた。 あの日、聴こえた声なき聲。 疲れ切った身体にその聲は心地よかった。 何度も死線を潜り、宛のない旅路の中で、聲はささくれた心をほんの少し慰めてくれた。 答える術など持ち合わせなく、己のことで手一杯で求めるモノにしか興味がなかった。 八方ふさがりで、縋る最後の糸と、辿り着いた斜陽殿。 苛む悪夢に心が血を吐き、精神が蝕まれて。 聲は柔らかく、いつ果てるとのない哀しみの色に染まって読んでいた。 「月の魔魅」と例えたバカのお陰で、浮いた足が地に着いた。 聲はまだ、呼んでいた。 地に足が着けば、聲は強く呼ぶ。 導かれて辿る山道。 頂きに見えた暗い岩牢に見えた影。 差し出した手を掴んだ温もりに、気持ちが綻び、名乗った名前を音のある聲で紡がれて、そうして、ようやく目が覚めた。 悪夢からの覚醒。 鮮やかに色付く世界の眩しさに目眩を覚えた。 だから───── ───傍に居ろよ。 |