雪 |
音もなく降り積もる真っ白な冷たい花弁。 綺麗なものも、汚れたものも、美しいものも、醜いものも、音も、匂いも、色も何もかもを白一色に塗り込めてしまう。 細かい粉のように、ふわりとした綿のように、雨の衣を着て、時に氷の外套を纏って、降り積もる。 広い世界にたった一人取り残されたと思い、冷たさに身震いをし、流す涙が凍る。 恐いと怖いと震えても、差し出される手はなく、掛けられる聲もなかった。 息を殺し、小さく身を縮め、涙を呑んで、寒風に耐え、白さから隠れた。 触れれば冷たくて、指先が冷たくて・・・・・ 「おい、何呆けてる?」 ぱちんと、後頭部をはたかれて、悟空は我に返った。 「…あ、あれ?さんぞ?」 はたかれた後頭部に手をやって、パチパチとまばたき、悟空は後ろを振り返った。 「そんなにまだ、雪が珍しいのか?」 わたわたと手を振って、違うと首を振り、ぱたんと俯いてしまう。 「何だ?」 困ったような、戸惑ったような、何とも言えない表情で三蔵を見上げてきた。 「…ここは暖かいなあって、思って…」 火を付けかけた格好のまま三蔵が首を傾げる。 「うん、すっげぇ暖かい…」 ぱふんと三蔵の腰に抱きつき、胸に頬をすり寄せる。 「人語しゃべれ」 頷く悟空の大地色の髪をくしゃっと掻き混ぜて、三蔵は煙草に火を付けた。 雪の降るたびに、朧な闇に囚われ、精気を無くした瞳で雪景色を見つめていた。 少しずつ雪を受け容れ、少しずつ慣れて。 それでも時折こうやって囚われたように、恐れるように雪を見つめる。 抱きついたまま動かない悟空の背中に三蔵は腕を回し、そっと、抱き締めた。 |