夢
夢を見た。

楽しくて、嬉しくて、子供は笑っていた。
世界は薄桃色に染まって、ふわふわと心地よかった。

誰かが、頭を撫でてくれた。
誰かが、ぎゅっと抱き締めてくれた。
誰かが、たくさん遊んでくれた。
誰かが、笑いかけてくれた。

子供は、くすぐったくて笑った。
子供は、温かくて笑った。
子供は、嬉しくて笑った。
子供は、幸せで笑った。

でも─────

顔が、よく見えなかった。
声が、聞こえたような気がした。
名前を呼べそうで、思い出せなくて。

喉に何か詰まった感じ。
磨りガラスの向こうを覗いてるような。
手が届きそうで、届かないジレンマ。

─────それでも・・・・

楽しかった。
嬉しかった。
本当に幸せだった。

「………ん…」

呼べない名前を呼んだような気がして、目が覚めた。
目を開けた拍子に、温かなモノが頬を流れ落ちた。

のそりと身体を起こす子供を追いかけるように鎖が乾いた音を立てる。
子供は己が両手をくすんだ瞳で見つめ、視線を上げた。

格子に切り取られた明るい空。

子供は身動きもせず、視線を外に向けたまま・・・。

「…ん………」

無意識に動いた唇は、呼べない名前を呼んでいた。




───迎えはまだ、遠い夢

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