絆 |
「…よかった…よかったよぉ」 「ばあか、何泣いてやがる」 「だって……」 泣き笑いの悟空のこぼれ落ちた涙を三蔵は、傷だらけの手で拭って、薄く笑った。 「だって?」 あの時、本当に心臓が止まった気がした。 傷だらけで崩れた岩場に倒れていた三蔵。 一瞬、目の前を過ぎた似た光景。 声を限りに叫んでも、その時は誰も起きてくれなくて。 「あ、あんなのもうぜってーやだかんな」 三蔵に触れるまでの記憶は朧で。 「ああ…」 するりと三蔵は涙で濡れた頬を撫で、悟空の頭を軽く叩いた。
「本当に…あの状況でよく、あなたの居場所を悟空は見つけたと思います」 三蔵の意識が戻って安心したのか、悟空は三蔵の傍らで眠っていた。 「ほーんと。月もない朔の夜で、手元にあるのは八戒の気孔で点した灯りだけなのにな」 椅子をまたいで座った悟浄が、背もたれに顎を載せて半ば感心、半ば呆れたような顔で、三蔵の包帯を替える八戒の言葉に頷く。 「真っ直ぐに、あなたの所へ走って行きましたから。ね、悟浄」 意識を失う寸前見たのは悟空の泣き顔で、それが衝撃による幻覚かどうか分からなかった。
お前は相変わらず煩いな
三蔵は自分の腰にしがみつくようにして眠っている悟空を見下ろし、僅かに口角を上げた。 「仲のよろしいこって」 苦笑する八戒と悟浄に、三蔵は楽しそうに笑ったのだった。 |