泣 く |
遠出の仕事から帰って来た三蔵は何だか憂いっていうものを抱えた、そんなどこか儚げな雰囲気を纏っていた。 でも、寺の仕事が山積みだとかで着替える間もなく執務室へ行ってしまった。 日付が変わる頃、仕事を終えた三蔵が戻ってきた。 「…さんぞ?」 呼んだけど答えはなくて、背中に廻った腕に微かに力が入った。 時々、本当に時々、三蔵は泣き出しそうなのに、柔らかく紫暗を揺らした穏やかな顔をする。 いつもの誰をも魅了し、付き従わせ、それでいて何処か優しい雰囲気じゃなく、今にも折れて消えそうな、存在感の薄い雰囲気で。 けれど…。 三蔵はきっと、泣いてる。 無自覚に。 何があったかなんて解らない。 きっと、話さないだろうけれど…。 辛いことなんて、俺が考えるよりも三蔵にはたくさんあって、哀しいことも俺が知る以上にたくさん三蔵は知ってる。 でも、三蔵は自分が誰よりも優しくて、強くて、脆いことを知らない。 だからこんな時、傍に居られるのは嬉しい。 柔らかく抱き込まれた腕の中は少し切なくて、温かくて。 いつの間にか外はしのつく雨に濡れていた。 |