独占欲
例えば、三蔵が笙玄と話しているのを見たとする。
当たり前って…ま、今はそうでも、笙玄がお前達の側仕えになった時はお前、どうだった?

「…何となくこの辺がもやもやした」

だろ?
で、そん時、どう思った?

「…俺のわかんないこと話して欲しくないって…思った、かも」

よし。
じゃあ、三蔵が楽しそうに寺の坊さんと話していたのを見たら?
そんなこと絶対ないって…いいから、想像してみろ。
どうだ?

「………それは…嫌かな?」

嫌か?
そうか。
じゃ、何で嫌なんだ?

「何で?…う−えっと…」

よく考えろよ。
それがお前が訊いてきた質問の答えになるんだからよ。

「えっと…」

いきなり俺ン家に駆け込んできたかと思うと、

「何で三蔵は俺以外の人に触られるの嫌なのに、なんでみんな触るんだ?なんでそれを見てる俺がむかむかしたり、悲しかったりするんだ?何で、三蔵が他の人と楽しそうに話していたら腹が立ったり、悔しかったりするんだよぉ」

そう言うなり、そこに居た俺にしがみついて悟空は泣き出しやがった。
何がどうしてこんなに熱くなってるのか判りかねたが、悟空がこうなってる原因は三蔵に決まってるのだからと、泣きやんだ悟空を宥めすかし、漸く事情が飲み込めた。

こんな時は悟空専用の保父さんである八戒の独壇場であるはずが、今日に限って出かけていやしない。
お陰で俺におはちが回ってきちまった。

まあ、悟空の悩みは誰もが持ってるもので、別段珍しいものじゃねえけど、純粋培養な悟空にはなかなかに理解しがたいものらしい。

ってか、保護者がこういうことを教えるもんだろうが。

そう思っても、あの生臭坊主がそんなことするわけねえよな。

俺の質問にうんうん唸って考えてるが、どうも答えは出そうにない。
ならば、質問を変えてみる。

じゃあ、悟空、三蔵様がな綺麗なお姉ちゃんと抱きあってるのを見たら?
そう言った瞬間、悟空は怒鳴りやがった。

「ぜってぇ三蔵はそんなことしねえ!だって、三蔵は俺以外抱かないって、抱かない…って言ってたもん!」

ご、悟空?

「それに三蔵は俺んのだから、誰も触っちゃダメなんだよ!」

ほら、答えだ。

「…へっ?」

激昂したのがウソのようなマヌケ面で俺を見やる。
それがお前の質問の答えだよ。

「こ、たえ…って…」

三蔵はお前の大事なもんで、他人様には触って欲しくないし、三蔵にはお前だけを見ていて欲しいってことは、

「ことは…何?」

そんだけ三蔵が好きってことで、誰にも渡したくない、自分だけのものでいて欲しいっていうのを独占欲っていうんだよ。

「ど…くせ、ん…よく…」

そう、何も可笑しくねぇぞ。
それは、好きな奴ができたもんはみんな持ってるんだからよ。
そんだけ三蔵をお前は好きだってことだ。

「…三蔵を好き…」

ああ、そう…大好きなんだろ?
そう訊いた途端、それは嬉しそうに笑って大きく頷きやがった。

いいねえ、幸せで。
な、悟空。

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