宝 物
ねえ、三蔵…ひとつ訊いてもいいですか?
あなたの宝物って何なのですか?

「…ぁあ?」

そんなあからさまに不審な顔しなくてもいいじゃないですか。
あ、コーヒーのおかわりいります?

「いる。…で?」

あ、ああ…何でそんなこと訊くんだっていうんでしょう?
それは────




   *****




「なあ、なあ、八戒」
「はい、何ですか?」

買い出しした荷物を整理していた八戒の背中に、飛びつくようにして悟空が声をかけた。

「あのさ、八戒の宝物って何?」

肩越しに振り返った八戒の顔を覗き込むようにして、悟空が期待を込めた表情で訊いてきた。

「僕の宝物、ですか?」
「うん」

屈めた背中にぶら下がる悟空を離して、八戒は彼と向き合った。

「また、何故そんなことを?」

問えば、悟空は小首を傾げて答えた。

「さっき、庭の樹に登って空見てたらさ、木の下で子供が大事な宝物の話をしてたんだ。で、じゃあ俺の宝物は何かなあって、考えていたらさ、八戒達や三蔵の宝物が気になってさ」
「そう、だったんですか」
「で、八戒の宝物って何?」
「僕の…ですか?」
「うん」




   *****




って、訊かれて咄嗟に何もなくて…思いつかないと、正直に答えたんです。
すると、悟空は何だかとても複雑な、それでいてどこか哀しそうな顔して、「ごめん」って。
で、三蔵や悟浄の宝物が何かわかれば自分の宝も見えてくるんじゃないかと、思いまして。

「…あのな…宝なんざ、人それぞれだろうが。本人にとっては宝物でも他人から見ればガラクタにしか見えねぇものが殆どだ。価値観の違いから生まれてくるそんな概念に何、振り回されてやがる」

でもね、気になるじゃないですか。
だから、僕の知識欲のために答えて下さい。

「……八戒…」

睨んでもだめですよ。
あ、でも、三蔵の宝って何か、僕解りますから無理に答えてくれなくてもいいんですけどね。

「………」

だって、きっと悟空の答えもあなたと同じだからですよ。
あ、ひょっとしたら悟浄の答えも同じかも知れません。

「八戒…」

ええ、きっと考えれば、僕の答えもあなたや悟浄と同じになると思います。
あの曇りのない綺麗な笑顔の、あの太陽を体現したようなあの子が、宝物だって。

ねえ、当たってるでしょう?

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