匂 い
八戒の匂いは、優しい。

食べ物を扱うから食べ物の匂いがする。
洗濯もしてくれるから石鹸の匂いもする。

綺麗な手と仕草で洗濯物をたたんで、俺たちのご飯を作ってくれる。

柔らかくて穏やかな声で話して、綺麗な笑顔の似合う八戒。

でも、時々、笑ってるのに怖い時がある。
その原因は大抵悟浄。

八戒は悟浄のこと好きなのかな?
いつも二人一緒に居ることが多いから。

それに八戒は何のかんの言っても悟浄には甘いんだって、自覚あるのかな。

三蔵にそう言ったら、

「ほっとけ」

って言われた。
あと、

「馬鹿を見るのはこっちだから気にするな」

とも言われた。
と言うことは、八戒と悟浄って仲良いんだ。




悟浄の匂いは、元気な匂い。

三蔵と違う名前の煙草を吸っているから煙草の匂いがきつい。
あと、石鹸の匂いとお酒の匂いもするし、時々甘い匂いもする。

大きな手で俺の頭を掻き混ぜたり、小突いたり。
三蔵に八つ当たりされたり、八戒に怒られたり。

笑った顔は凄く綺麗で、本当はとっても優しい悟浄。

でも、しょっちゅうトラブルの元を作って、三蔵や八戒に怒られてる。

俺が悩んでるのに気が付くのが三蔵の次ぎに早い悟浄。
気付いても何も言わない。
俺が話すまで待ってくれる。
そこが三蔵と少し違う。

それが、違う形の思いやりだって最近、気が付いた。

「悟浄って優しい?」

って訊いたら、

「こんないい男は他にいないよ〜小猿ちゃん」

って笑った。
大人なのか、子供なのか、わかんないって思った。
でも、兄貴がいたらこんな感じかな。




三蔵の匂いは、大好き。

寺院に居た時は、笙玄がイイ匂いの香を焚きしめていたから、墨と煙草の匂いが混ざった不思議な匂いがしていた。
今は、煙草と硝煙の匂いばかり。

変わらずに大きな手で俺のことを構ってくれる。
八戒よりも綺麗な仕草を見せる三蔵の手。
俺の大好きな三蔵の手。

滅多に笑わないけど、笑った顔は本当に見とれるほど晴れやかで、鮮やか。
俺しか知らないかもしれない三蔵の笑顔。

いつも不機嫌で、怒りん坊だけど、本当は誰よりも繊細で優しいんだって自分で気付いてるのかな?

八戒に、

「三蔵って優しいよな」

って訊いたら、悟浄と顔を見合わせて、

「悟空が知っていれば、三蔵は十分じゃないんですか」
「ああ…それで満足してるはずだぜ」

って笑われた。
よくわかんないけど、三蔵がそれで良いなら俺はそれでいい。




旅の匂いは、土と太陽と風の匂い。
それは世界の匂いで。

三蔵がくれた太陽よりも眩しい世界の匂い。
時折混じる血の匂いも腐臭も涙も全部、世界の匂い。

生きることの匂い。
三蔵や八戒、悟浄と生きていく。

この足でちゃんと立って、三蔵の横を前を向いて。

世界はこんなに明るい。

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