旅の途中 |
「通り雨、ですね」 と、八戒が言った。 「なら、すぐに止むんじゃねぇ?」 と、悟浄が雨宿りしている大きな樹の枝影から空を覗いて、言った。 「だと…思いますよ。ねえ、三蔵」 八戒の問いかけに、三蔵は何も、頷きもしないけれど、紫暗の瞳が「そうだ」と、頷いていた。 「きらきら光ってるよ?」 透けた陽差しに雨が光って見えると、指差せば、 「天気雨だ」 って、三蔵が教えてくれた。 「天気雨?」 よく分からなくて八戒を振り返ったら、 「晴れているのに降る雨のことですよ。ああ、狐の嫁入りとも言います」 って、悟浄が笑った。 「狐が結婚式?」 ますます解らなくなって唸ったら、 「天気雨だけ覚えとけ」 そう言って、頭を三蔵に小突かれた。 「行くぞ」 くわえていた煙草を雨が作った小さな水たまりに投げ込んで、三蔵が動き出した。 「急げば次の街に入れますからね」 八戒の肩に止まっていたジープがクルマに変わった。 「悟空─っ!行きますよぉ」 八戒の呼ぶ声に走り出せば、足許で光の粒が弾けた。
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