旅の途中
「通り雨、ですね」

と、八戒が言った。
言われて見上げた空は淡い空色で、太陽の陽差しが透けて見えた。

「なら、すぐに止むんじゃねぇ?」

と、悟浄が雨宿りしている大きな樹の枝影から空を覗いて、言った。

「だと…思いますよ。ねえ、三蔵」

八戒の問いかけに、三蔵は何も、頷きもしないけれど、紫暗の瞳が「そうだ」と、頷いていた。

「きらきら光ってるよ?」

透けた陽差しに雨が光って見えると、指差せば、

「天気雨だ」

って、三蔵が教えてくれた。

「天気雨?」

よく分からなくて八戒を振り返ったら、

「晴れているのに降る雨のことですよ。ああ、狐の嫁入りとも言います」
「狐?雨が降る日に嫁入り?…嫁入りって?」
「結婚式だよ、サル」

って、悟浄が笑った。

「狐が結婚式?」

ますます解らなくなって唸ったら、

「天気雨だけ覚えとけ」

そう言って、頭を三蔵に小突かれた。

「行くぞ」

くわえていた煙草を雨が作った小さな水たまりに投げ込んで、三蔵が動き出した。
まだ、雨は降っていたけど、陽差しが雲の切れ間から差し込んで眩しかった。

「急げば次の街に入れますからね」
「お、いいねえ」
「ほどほどにして下さいね」
「了解」

八戒の肩に止まっていたジープがクルマに変わった。
一番に乗り込む三蔵の金糸が雨の滴と差し込んだ陽差しに煌めいた。

「悟空─っ!行きますよぉ」
「うん」

八戒の呼ぶ声に走り出せば、足許で光の粒が弾けた。


旅はまだ途中。

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