一人ぼっちじゃない |
空が薄い茜色に染まりだす。 一緒に遊んでいた友達が一人、また一人と帰って行く。 ある者は、約束の時間だから。 家々に灯りだした温かな灯りを見つめて、悟空は足許の小石を蹴った。 「…まだ、帰ってないよな」 ぽつりと呟く声が、夕風に攫われた。 悟空の養い親である三蔵は、説法の仕事で出掛けている。 「……仕事だし…」 手紙を読んで酷く落胆した悟空に、笙玄は、 「あの三蔵様がそんなに我慢なさると思いますか?きっと、こっそり抜け出して帰っていらっしゃると思いますよ」 などと、何だか恐ろしいことを言っていた。 「笙玄ってさ、三蔵のこと我慢の利かない子供みたいに思ってるんだ…」 寺院への帰り道、肩に止まった小鳥に悟空はそう言って笑った。 「でも、それが冗談ですませられないところも三蔵なんだよなぁ」 くすくす笑いながら街の門を潜った。 「すっげぇ…甘そう…」 な?と、肩先に止まった小鳥を振り返った悟空の動きが止まった。 「…うそ……マジ…?!」 呟いた言葉を聞き咎めた顔で、悟空の斜め後ろに立った人物が、軽く瞳を眇める。 「な…んで…?」 躯ごと振り返った悟空の動きに、肩先の小鳥が驚いて飛び立つ。 「何で?帰って来ちゃあ悪いのか?」 問いに問いで返されて、悟空は瞳を見開き、慌てたように首を振った。 「なら、いいじゃねぇか」 悟空の返事にその人は綺麗な紫暗の瞳を綻ばせて、手を差し出した。 「帰るぞ」 言われて、悟空は差し出された手をすり抜けてその人に抱きついた。 「おかえり…三蔵」 受け止めた悟空のくぐもった声に、三蔵は大地色の頭をぽんぽんと軽く叩いたのだった。 |