風 邪
鼻がむずむずして、何だかすぐに眠くなる。
居間の長椅子に座って天井を見てたら何だかぐるぐる廻ってる感じがして……。




目が覚めたら心配顔の笙玄がいた。

「あれ…?」

何がどうなったのかよくわからなくて、辺りを見回せば寝室だということに気が付く。

「……なん…で?」

訳がわからなくて笙玄を見れば、

「ようやく熱が下がりましたね」

って、そう言って笑った。

「熱?」

そう言って、躯を起こした俺の顔がよっぽど変だったのか、笙玄は小さく笑って話してくれた。

「一昨日、居間で倒れている悟空を三蔵様が見つけられたんです」
「三蔵が?」
「はい。それはもうびっくりされていました」
「心配かけたんだ…」

笙玄の言葉にきっと、三蔵はびっくりしただろうし、心配もたくさんかけただろうし、迷惑もたくさんかけたんだろうと思う。
そう思うと顔が上げられなくなった。

「大丈夫ですよ、悟空」
「……えっ?」

何が大丈夫なのかと、顔を上げれば、

「三蔵様は今、三仏神さまのご下命でお出かけになっていらっしゃいますから」

そう言って、笙玄が笑う。

「いつから…?」
「悟空が倒れた日からです」
「じゃあ、じゃあ、もっと心配かけてるじゃん!」

言えば、いいえと、答えが返ってくる。

「それは大丈夫です」
「何で?」

躯を乗り出せば、

「出掛けられた次ぎの日の夜、使いを寄こされたので、その使いに悟空は熱も下がって元気にしていると、お返事をしました」

と、返事が返った。
三蔵は使いの言葉を信じたんだろうか?
胡乱な瞳で笙玄を見やれば、

「大丈夫ですよ、悟空」

と笑うばかりで。
でも、三蔵が帰ってきた時、元気にしていれば笙玄が言ったことは嘘じゃなくなるわけで。

「……ま、いっかぁ…三蔵が帰って来た時、元気だったら」

何て思ってしまった。
俺の言葉に笙玄が頷いて笑うから、俺も思わず笑ってしまった。
その時、待ってましたとばかりに腹の虫が盛大に鳴った。

「お腹が減れば元気になった証拠ですね。すぐに、何か持ってきますから待っていて下さいね」

そう言って嬉しそうに寝室を出て行った。
その後ろ姿を見ながら、きっと笙玄にもたくさん心配をかけたんだなあって、部屋を出て行く時の嬉しそうな笑顔を見て思った。

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