キレイ
明るい陽差しに三蔵の金糸が豪奢な光を放って閃く。
正式な純白の三蔵法師の法衣は織り込まれた銀糸が、三蔵が動くたびに柔らかにひらめき、纏っている九条袈裟の色とりどりの糸が虹のように輝いた。
その煌びやかな衣を纏う三蔵の静謐な美貌と相まって、その姿は人を寄せ付けない神々しさを醸しだし、この世の存在とは思えない姿を三蔵は衆人の前に見せていた。

今日は三蔵と悟空が身を寄せている寺院の開山記念日に当たる。
当日の何日も前から準備が行われ、寺院の最高責任者である三蔵もまた、様々な準備作業に追われた。

その間に、祝いに訪れる檀家や信者の接待をするのもまた、三蔵で。
開山記念の式典当日には、三蔵の傍らにいることを悟空ですら遠慮したいと思わせる程、三蔵の機嫌が地の底を這っていた。
それでも、しなければならないことは、どんなに不本意であっても、茶番劇だと内心呆れ返っていたとしても、三蔵は無表情に感情を押し殺し、責任は果たすのであった。

今も、溢れる程に寺院の敷地に集まった人々の前に三蔵はその姿を現し、皆に向かって説法を始めた。
そのよく通る声に人々は聞き惚れ、見目麗しい姿と共に人々は三蔵に酔った。

そんな様子を悟空は僧庵の屋根に上って見下ろしていた。

「いつ見ても三蔵は、本当にキレイだよな」

腕に抱いた野良猫の身体に鼻先を埋めて、悟空はふわりと笑った。
その声に答えるように猫が鳴く。

「お前もそう思う?だよな。着飾った三蔵はホントにキレイだけど、いつもの法衣着て、面倒臭そうに仕事してる姿もキレイなんだ」

執務室で山のように積まれた書類を面倒臭そうに片付ける三蔵の姿を思い出して、悟空が笑う。

「うん…仕事してる姿も、戦ってる姿も、寝てる姿も、煙草を吸ってる姿も…何もかもが三蔵はキレイなんだ。それはきっと、三蔵すっげえキレイだからなんだ。姿形じゃなくて、三蔵の心が、さ」

悟空の言葉に応えるように鳴く猫の身体に埋めた鼻先を擦りつけるようにして、猫を抱く腕に悟空は軽く力を入れた。

「三蔵はいっつも不機嫌でさ、何考えてるのかわかんない事もあるけど、本当はとっても優しいんだ。冷たく人を突き放してるようで、本当はとても熱いんだ。だけど、すっごい照れ屋で、不器用なんだ」

悟空の言葉に猫が笑うような鳴き声を上げる。

「笑うなよ…ホント、素直じゃないし、我が儘だし、偏屈なんだけど…味覚も変だけど、けど…訳のわかんない俺みたいなの拾ってくれて、傍に置いてくれてさ…ちゃんと、守ってくれてるんだ。すっげぇ…わかりづらいんだけどな…」

ぎゅっと、猫を抱きしめてから悟空は猫を屋根の上に下ろした。

「ほら、三蔵の説法が終わった」

猫に指差した大雄宝殿では、説法を終えた三蔵が軽く会釈して踵を返す所だった。

「戻らなきゃ…部屋から出たのがばれたら、ハリセンでこっぴどく殴られる…」

その痛みを思い出したのか、悟空は顔を顰めて傍らで毛繕いをする猫を見下ろした。
猫はそんな悟空を気にする素振りも見せずに、毛繕いに余念がない。
その姿に何となく猫に笑われた気分になった悟空は、

「…ちぇ…」

小さく唇を尖らせて不服そうに猫を爪先でつつくと、くるりと踵を返した。
その肩先で、三蔵の金糸が光って見えた。

close