仕 草
例えばそれがお茶を飲む仕草だったり、ご飯を食べる姿だったり。
煙草を吸う、というその動作一つも、だ。

じっと立って、僧侶達が掃除をしているのを見ているその立ち姿でも、衣を翻して回廊を歩く姿でも、本当にそれは目を引く。

その容姿だけではない。
その纏う雰囲気だけではない。
その存在感でもない。

人にとってごくありふれた普段の行動や仕草が、目を引くのだ。

本人は当たり前のように行動しているだろうし、決して上品とも言い難い言葉遣いや表情を見せるというのに、それを忘れる程の印象を植え付けてくれる。

気付いたのは些細なことだった。
それが、自分の同居人と並んでの事だったから、尚更なんだったと思う。

自分の同居人は、孤児院で育ったけれど、その仕草は優しく、美しい。
柔らかな曲線を描く女性では無いけれど、それを思わせる程の繊細な動きを偶に見せてくれる。
上品とか、上流階級の人間だとか言う輩には、何度も逢ってきたが、そんな奴らが下品に見える程、同居人の仕草は洗練されて美しかった。

けれど、とある事件で知り合ったあいつは桁が違った。

ただの柄の悪い、坊主とも思えない言動に最初は気付きもしなかった。
一緒に連れている小猿のちょっとした仕草に、きっちり躾られてると気付いたのはいつだったか。

しかし、それもあいつの側仕えの坊主の努力の賜だと信じていた。
信じていたのに…。

「本当に三蔵はちょっとした仕草が美しいですよね」

感心したように帰り道、八戒が言うのへ、俺はただ頷きを返すことしか出来なかった。
そんな俺に、

「ショックでした?」

と、八戒が笑いを含んで訊いてくるから、

「ちーっと、驚いたんだよ。あんな生臭がなーんで、あんなに洗練されていんだぁって、さ」

ふてくされたように答えれば、

「悟空が言ってました。三蔵はご飯の食べ方やお箸の持ち方とかすっごい煩いって」

くすくす笑いながら八戒が返してきた。
その言葉に、俺は顔を嫌そうに顰めていたらしく、

「三蔵の七不思議ですね」

と言って、また笑った。

close