酔 う |
久しぶりに泊まった宿屋で、温かい食事と美味しい酒にありついた三蔵達一行は、宿の食堂が閉まるまで飲んで、食べた。 部屋へ引き揚げる時になって三蔵がいないことに悟空は気が付いた。 「あれ?三蔵は?」 問えば、酔いつぶれた悟浄を立たせていた八戒が、 「さあ…風にでも当たりに出たんじゃないですか?」 そう言って、小首を傾げた。 「ほら、悟浄、立って」 よろよろと半ば眠りかけた様子で八戒に立たされた悟浄が、立ち上がる。 「悟空、部屋に戻ります……よ…悟空?」 すぐ傍にいる悟空に声をかけた。
捜して、探して。 「三蔵!」 呼べば、ちらりと視線が寄こされたが、すぐにそれは元に戻される。 三蔵は本当に綺麗だと悟空は思う。 それよりも、何より綺麗だと思うのはその心だ。 けれど、その心根は信じられない程に優しく、脆い。 「…いねえからさ、探したじゃんか」 すぐ傍らに立って告げれば、 「……どこにも行かねえよ」 と、少し呆れた返事が返ってきた。 「でもさ…どっか行っちまいそうな気がする…」 三蔵の傍らに座れば、 「な、なんだよぉ…」 ぱたぱたと煙を払えば、 「ばあか」 と、言葉が返ったかと思う間もなく、その肩を抱かれた。 「さんぞ…?」 驚いて顔を見れば、酒の臭いのする吐息が悟空の唇に触れた。 「どこにも行かねえよ、こんな喧しいサルを置いて」 くつくつと喉を鳴らして笑うと、三蔵は抱いていた悟空の肩を離し、ごろりと寝転がった。 「さんぞ?」 三蔵の突然の行動に悟空は驚いて寝転がった三蔵を見やれば、 「酔い覚ましだ」 そう言って、目を閉じた。 「こんなとこで寝たら……ま、いっか」 悟空も三蔵の傍らに寝転がった。 「酔っぱらい」 言えば、 「喧しい」 と、どこか呆けた返事が返った。 |