キ ス |
三蔵は悟空の泣き顔が苦手だ。 一時も同じ表情をしていない悟空の表情の中で、本当に泣き顔は苦手なのだ。 笑って。 小首を傾げて。 天を仰いで。 眠って。 じゃれて。 片時も留まらぬ笑顔と百面相。 明るい日向そのものの悟空の容に降る透明な雫。
そして覚えた一つのまじない。
濡れた頬に唇で触れる。 額に触れ、鼻先に触れ。 「…これ、何?」 訊かれて三蔵は小さく笑い、涙の溜まった金瞳にまた触れた。 「まじないだ」 瞬くたびに雫がこぼれ落ちる。 「何の?」 小首を傾げて見やる紫暗は柔らかく綻びて、悟空の黄金も綻びた。 それは涙を止めるまじない。 |