「や…だから…えっと…」 困り果てた悟空が宿の窓から見下ろす中庭に見えた。
落ち着かない様子の悟空の前には、悟空と同じ年頃の少女が一人。
栗色の髪と大きな鳶色瞳をしたなかなかに可愛い子だ。
萌葱色の洋服が映えて、愛らしい印象さえ受ける。
その少女が悟空に花束を差し出していた。
「ダメ?」
「…って、言われてもぉ…俺…」
「どうして?」
「や…えっと……」
どうやら花束を悟空に受け取って欲しいらしい。
が、悟空は受け取れないと、断りたいが、上手く言い出せないような感じだが、朱に染まった目元を見る限り、照れているとしか思えない。
「おお、青春だねぇ」
「何だ?」
「どうしたんです?」
俺の独り言に悟空の保護者達が窓を覗き込んだ。
そして、
「おや…」
「………」
八戒は片眉を上げてその様子をしげしげと見つめ、三蔵は二人を目にした途端、むっとした空気を纏った。
「告白されてるみたいだぜ、小猿ちゃん」
「悟空は可愛いですからね」
当然と八戒が頷けば、三蔵の纏う空気が固まる。
「お願い、いいでしょう?」
「だって…やっぱり…さ、あの…」
「どうしても…ダメ?」
「…………うん、ゴメン…」
悟空の返事に少女の表情が一瞬、泣きそうに歪んだ。
「あらら…可哀想に」
俺が呟けば、
「三蔵、よかったですね」
と、八戒が三蔵へ笑顔を向けた。
その笑顔に、三蔵のこめかみがひくりと動く。
「悟空はあなたの方がいいみたいですね」
そう言って笑った笑顔が何だか怖かったのは俺の気のせいだろう。
三蔵は八戒の言葉に小さく舌打ち、ちらりと窓から悟空の姿を見やった後、踵を返した。
その耳が微かに赤かったのは、俺の見間違いだろうか。
本当にわかりづらそうで、至極わかりやすく、可愛い人間だと思った。
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