秘 密
三蔵が宿の中庭で煙草を吸っていた。
秋の盛りの今頃の色付いた木々を背景にして立つ姿は、とても綺麗だ。
男の人に「綺麗」って言うのは変だって、教えて貰ったけれど、やっぱり三蔵を表すのに「綺麗」って言葉は必要だ。

秋の日暮れ前の光に光る金色の髪、優しいけど冷たくて、厳しくて、とても澄んだ紫暗の瞳。
白くてすべすべした肌と、神様に近い証の額のチャクラ。
通った鼻筋、形の良い唇。
痩せてるけど、無駄な筋肉のない身体。

どこを取っても、どれを見ても、本当に三蔵は綺麗だ。
そして、イイ匂いがする。

寺院に居る時は、笙玄がいつもイイ匂いのする香を焚きしめていたから、三蔵の法衣からはその香の薫りと煙草の臭い、あとは、墨のの臭いがいつもした。
でも、今は硝煙の臭いと煙草の臭いと、太陽と土の臭いがする。

大好きな三蔵。
大切な三蔵。

あの暗い岩牢から連れ出してくれたあの日から、俺の世界の中心は三蔵になった。
けれど、そう言うと三蔵はいい顔をしない。
もっと広い世界を、もっと遠い世界を、自分の周囲をよく見て、感じろって言う。
確かに、三蔵の言う通り世界は広くて、眩しくて、珍しくて、楽しい。
でも、それは三蔵が居るからで、三蔵の傍に俺が居るからだ。

誰よりも大好きで、大切で、綺麗な三蔵が居るからなんだ。

外見が綺麗なだけじゃない。
三蔵は心も綺麗だ。
すぐ自分を責める所も、絶対人の所為にしないことも、負けない心も。
誰よりも自分に厳しくて、強くて、とても優しくて、真面目で、脆く儚い。

だから、三蔵は誰よりも強くて、何よりも綺麗なんだ。
だから、三蔵が居るこの世界に俺は居られるんだ。

そんなこと考えながら、何処かぼうっとした顔で煙草を吸ってる三蔵を見ていたら、不意に三蔵がこっちを向いた。
びっくりした俺は、身体を引いた拍子に椅子から転げ落ちた。
その様子を悟浄が呆れた顔して見てた。

「何やってんだ?」

って、顔を覗き込んで来た。

「な、何もしてねぇ」
「そうかぁ?」

にやにや笑う悟浄の顔を押しのけて、慌てて立ち上がって尻を払いながら中庭を見れば、三蔵の姿は無かった。
俺が三蔵の姿に見惚れていたことは、誰にも秘密。
でも、きっと三蔵以外の人にはバレバレなんだろうな。
そう思うと、何故だかため息が零れた。

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