喧 嘩 |
「三蔵のバカぁ───っ!」 ばあんと宿の部屋が揺れる程の振動でドアが叩き付けられるように閉じられ、床板を踏み抜くんじゃないかというような荒々しい足音が宿の外に向かって行った。 俺は傍らで呆れきったため息を吐いた八戒を見やった。 「煙草買ってくるわ」 苛つきながら煙草を吸っている三蔵の背中にそう言って、八戒には片手を上げて見せて、俺は部屋を後にした。
「さて、小猿ちゃんはどこに行ったんだ?」 宿の前の通りを見渡せば、斜向かいに小さな公園を見つけた。 だけど、喧嘩なんてそんなもんだろうが。 売り言葉に買い言葉。 だから、喧嘩両成敗。 どっちも反省して、お互いを認め合えば治まる。 言葉で身体で傷付け合っても、そこに想う心が在れば通じるし、仲直りは出来る。 「面倒臭いって…ホント」 公園の奥、ブランコに悟空を見つけた。 「三蔵さまじゃなくてざぁんねんでした」 言えば、 「わかってるもん」 と、むくれた返事と一緒にか細い「ゴメン」が聞こえた。 「反省は?」 問えば、 「………してる」 と、返事が返った。 「なら、ちゃんと謝れ」 言えば、ブランコの鎖を握る手に力が入った。 「…ま、お前の勝手だけどな」 ぽんと、悟空の頭を叩いて俺は踵を返した。 「……悟浄…?」 顔を上げた悟空に公園の入り口を指差してやった。 |