もう少し |
最近の三蔵は働き過ぎだと、悟空は執務室の窓から見える三蔵の姿にため息を吐いた。 春にはたくさんの大事な行事があることは、世事に疎い悟空でも知っている。 たくさん我慢している。 ヘビースモーカーの三蔵が煙草を吸う暇さえないし、渋茶が好きで、お茶請けにはあんこの入った饅頭を楽しみにしていたのに、そんな時間なんてない。 何より面倒くさがりの三蔵が。 思うことは、三蔵が聞けば怒ること請け合いなことばかりだけれど、それ以上に身体を壊して倒れてしまうのではないかと心配になる。 「……さんぞ…」 窓硝子にもたれて名前を呼んでも執務室にいる三蔵から応えは返ってこない。 「大丈夫…かな……?」 綺麗な姿にどこか影が差して、疲れているのが見える。 「…倒れないでくれよな…」 顔を見て言えば、いらない世話だと一蹴されるこはわかっているから、ここで願う。 「…さん…ぞ…………しい…よ…」 吐息のように弱音を吐いて、悟空は三蔵の姿を見つめたまま、いつしか眠り込んでしまった。 風は温かく悟空を包み、いつの間にか芽吹いて葉を茂らせる新緑の葉陰は、悟空を守るように梢を揺らす。 と、眠る悟空の顔に影が差した。 「もう少しだからな…」 愛しそうに耳元で呟いた。
───……もう少し…… |