別 れ |
「なあ…三蔵はどこにも行かない?」 珍しく一日大人しいと思えば、寝る頃になって何を言い出すんだと、三蔵は夜着の端を握って見上げてくる養い子の顔を思わずまじまじと見返した。 「…何なんだ、急に」 寝台に入りかけていた身体を返して、三蔵は悟空と向き合うように寝台に座った。 「悟空」 名前を呼べば薄い肩が微かに震えて。 「…置いて……行かないよな」 紡がれたか細い言葉に三蔵は眉を顰めた。 何があったと言うのだろう。 「おい、悟空」 話せと声に意志を込める。 「………見たんだ。血まみれで金髪の人が倒れてるのを…」 三蔵の夜着を握る手が震える。 「…馬車に子供を庇って轢かれたんだって。傍で子供が泣いてた」 その姿を見た時、悟空は既視感に襲われたのだ。 紅い記憶。 金髪のその人が不意に知っている人に思えて。 「………逝かないって、言ったのに…」 口をついてでた言葉に悟空は呆然とし、逃げるように帰ってきたのだった。 三蔵は悟空のたどたどしく話す内容に、ため息が零れる。 悟空は岩牢に入る以前の記憶がない。
中途半端なことしやがって…
三蔵は不安に揺れる金瞳を見やって、小さく息を吐き、くしゃっとその頭を掻き混ぜた。 「何処にも行かねぇよ。お前みたいな煩い奴を置いて何処にも行けねぇよ」 三蔵の言葉に悟空は一瞬、瞳を見開き、ついで小さく笑った。 「…なんかそれって…ひでぇ…」 三蔵の言葉に「ひでぇ…」と呟きながら、悟空は漸く笑った。 「寝るぞ」 引きずられるな。 規則正しい寝息を立て始めた悟空の金鈷に、小さな温もりが触れた。 |