―――――歌声が聴こえる・・・―――――
雨のメロディ
暗い闇い・・・岩牢の中。 光の届かない場所でずっと太陽に憬れていた。 何処かで忘れてしまった『あったかい』という想いが感じることの出来た空に浮かぶ眩しい光。 だから太陽を隠してしまう灰色の雲は嫌いだった。 岩牢の中のように外の世界も暗くなってしまうから。 灰色の雲は嫌い、でも雨音は嫌いじゃない。 空から聞こえる優しい歌声。 あの時の小鳥以外に音を届けてくれる唯一の存在。 温もりはないのに、忘れていたハズなのに『あったかくて』ひどく安心する。 雨音はまるで―――――・・・・・・
今朝からずっと雨音が室内に響いていた。 温もりを感じるシーツに包まれていた悟空は更なる温もりを求めて傍らの体温に身を預けて寝返りを打つ。 「まだ寝るつもりか?」 呆れたような口調でも何処か優しい声で三蔵は茶色の髪を撫でる。 「ん〜・・・」 眠そうにシーツを握った手で目元をこすりながら、薄っすらと金眼を開ける悟空。 「うん。だって、今日は出発できねぇーんだろ?」 外はまだ雨が降り続け、止む気配を見せない。 出発が延期になるのは確認を取るまでも無いことだろう。 雨の少ない土地だからこそ、多少の足止めにしかならないが彼らに出来た突然の休日をゆっくり過ごすのもたまには良い。 「そうだな」 身を起こし紫煙を吐き出していた三蔵は、サイドテーブルに置かれたぬるいビールの空き缶に吸い殻を押しつける。 二人も昼くらいまでゆっくり過ごしていることだろう。 珍しく空腹を訴えて来ない悟空。 このまま、もう一眠りするのも良いかも知れない。 出発は出来ないのだから・・・と言い訳を考えながら再びベッドへと身を沈める。 「このまま寝るのか?」 「うん」 「変わらんな」 今では考えられないことだが昔は寝付きの悪かった悟空。 その悟空が雨の日だけは三蔵が部屋に戻る前に眠っていることが多かった。 最初は偶然かと考えていたが、それは何時の間にか確信に変わった。 寝かし付けなくても大人しく眠る悟空に聞いてみれば、安心するのだと口にした言葉。 さしずめ悟空にとって雨の音は子守唄といったところだろう。 「そんなことねーよ」 三蔵に子供扱いされたと思ったのかムキになったように反応する。 「あん時と違って今は・・・」 三蔵の首に腕を回して、しっかりと胸に抱き付く悟空。 膨らましていた頬が、ニッコリと弛み満面の笑みになる。 「これが無ぇとさv」 「俺は湯たんぽじゃねえぞ」 「分かってる。俺、雨の音も好きだけど三蔵の音も好きなんだ」 生きていることを主張する熱い鼓動。 心音と体温が悟空に言い切れない程の安堵を感じさせる。 「だから二つの音と三蔵の温もりで眠くなる・・・」 既に眠りへと入り掛けた悟空の語尾が怪しくなる。 「湯たんぽじゃねえかよ」 苦笑しながらも、回した腕を外すようなことはしない。 短い髪に指を指し込んで悟空の頭を胸元で支える三蔵。 「うん・・・」 無意識のまま言葉を返す悟空に苦笑が浮かぶ。 生を感じる心音と大地を潤す雨音が優しい歌声となって悟空の耳に囁かれる。 『おやすみなさい』 二つの子守唄に包まれて・・・・大地の子供が眠る。 闘いの中での束の間の休息。
灰色の雲に隠れない太陽が許すひとつの子守唄。
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<碓氷砂帆様 作>
ホワイトデーに差し上げた駄文のお礼に頂きました。
三蔵様がとーっても優しくて、眠そうな悟空が可愛くて、旅の途中の何気ない雨の日の二人が、幸せなひとときを楽しむ……
そんな時間を覗かせてもらって、読んでいる私も幸せな気持ちになりました。
雨の日は、辛いばっかりじゃなくて、幸せな時もあるんだよって教えてもらった気分です。(ああ、幸せ〜)
碓氷様、ありがとうございました!