金の瞳の子供が、バルコニーへ続く窓を開け放して、一心に夜空を見上げている。 部屋の柱時計は、子供が寝る時間だと先程から告げている。
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My Dear Santa Claus |
自分に科せられた仕事という名の勉強を終えた三蔵が、悟空の部屋へ戻ってきたのは夜中を少し過ぎた時間だった。 三蔵はこの時間ならもう眠っている悟空を起こさないようにそっとドアを開けて、部屋の中へ滑り込んだ。 窓が開いているということは、誰かがここへ忍び込んだことを意味する。 悟空はベットに居るのだろうか。
自分はこんな時のために、常に悟空の側に居る。 親の顔など知らない。 そんなある日、里親ができたと教えられた。 お前が守ってあげるんだよと、教えられた小さな赤ん坊。 引き取られる条件はただ一つ。 だからこそ、ここに居られるのだ。
三蔵はそっと、悟空が眠っているはずのベットに近づいた。
まさか…
嫌な予感に開け放たれた窓辺を見て、三蔵は一瞬、固まった。 窓から少し外に出たバルコニーの入り口に、悟空が自分の身体ほどもあるぬいぐるみを抱えて、寝間着一つで座っていたのだ。
あのバカ…
気配を殺すことも警戒することもなく、三蔵は悟空の傍へ走り寄った。 「何してやがる!風邪引くじゃねえか!」 三蔵の怒鳴り声に、悟空は振り返った。 「あ、さんぞー、おかえりー」 自分の後ろに立つ三蔵の姿に、悟空は嬉しそうに笑う。 「こんな夜中に、一体何してんだ?」 そう言いながら悟空の身体に触れた三蔵は、予想通り悟空の身体が冷え切っていることに舌打つ。 「こんなに冷えちまって。マジ、風邪引くぞ」 動かない悟空の腕を引っ張れば、悟空は嫌だとその手を振りほどいた。 「やだ!ここにいるの」 ぷうっと頬を膨らませて三蔵を睨む。 「わかった。わかったから、理由を言え、理由を」 そんな三蔵に悟空は上目遣いに睨んだまま、 「笑わない?怒らない?」 と訊いてくる。 「ああ、笑わねぇし、怒んねぇよ」 と答えてやれば、悟空はぽつりと言った。 「サンタさん、待ってるの」 驚く三蔵に、悟空は嬉しそうに頷く。 「いっつも寝てる間に来ちゃうから、今夜こそは起きて待ってて、ありがとうが言いたいんだ」 真剣に話す悟空の言葉に、三蔵は何となく面映ゆい。 なぜなら、悟空が内緒で思っている欲しいモノを悟空の両親に教えているのは何を隠そう三蔵だったりするのだ。 「でもな、起きてたら来ないぞ、サンタクロース」 三蔵の言葉に悟空が、きょとんとする。 「内緒のお仕事?」 うつむいて納得しない悟空の様子に、三蔵は何か良い案がないかと大急ぎで考える。 「…じゃ、じゃあ、手紙を書け」 三蔵の説明を真剣に悟空は聞いていた。 「わかった。そーする。サンタさんにお手紙書く!」 と言って、立ち上がり、薄明るい部屋の中を机に向かった。 三蔵は冷え切った悟空の身体にガウンを着せかけ、暖かい飲み物を取りに部屋を出た。
熱くしたミルクを持って部屋へ戻ってみれば、悟空は机に突っ伏して眠っていた。 三蔵はミルクを載せたトレイを机に置くと、悟空を抱き上げ、そっとベットに寝かた。
明日は、大騒ぎかぁ…
悟空の手紙を見て大騒ぎする保護者達のことを思うと、自分の提案ながらまずいことをしたと思うのだが、悟空がそれで嬉しいのならまあ、いいかと自分を納得させる三蔵だった。
いっぱい、いっぱいのありがとうをサンタクロースに。 いつもたくさんの嬉しいをありがとう。 大好きなサンタクロース様。 ─────メリークリスマス
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