入道雲 |
「笙玄、もう入道雲が出てる」 悟空が指さす先に見えるのは、今年初めての真っ白な入道雲。 「本当に。今年は夏の訪れが早いんですね」 眩しそうに手を翳して、笙玄が悟空の指さす入道雲を見やる。 「そうだね」 悟空と笙玄は、顔を見合わせて笑った。 「今日もよいお天気です」 悟空は大きく頷き、何か嬉しいことを思い出したのか、ポンと手を叩いた。 「あのね、昨日、ヒタキの巣を見つけたんだ」 笙玄の返事に、悟空は嬉しそうに相好を崩した。 「雛がね、孵ったばかりでピィピィ鳴いてた」 そう言って笑う笑顔は輝きを増して、笙玄はそれに応えるように笑顔を深くした。 「なあ、何で音立てるの?」 悟空がした問いかけの意味が解らなくて、笙玄はきょとんとした顔をする。 「だからぁ、何で洗濯物干すのにいちいち音立てるのかな?って」 問いかけの意味をようやく理解して、不思議そうに笙玄の手元を見つめてくる悟空の目の前でもう一度、ぱんっと、音を立てて見せた。 「うん。何で?」 頷く笙玄の手は止まらず、洗い上がった洗濯物が次々と竿に干されてゆく。 白い三蔵の僧衣、白衣、足袋。 悟空は気持ちよさそうに身体を伸ばした。 「あっ…」 煙草をくわえ、風に金糸をなびかせた三蔵がこちらを見上げていた。 「三蔵──っ!」 悟空が手を振って呼べば、三蔵は眩しそうに瞳を眇めた。 仕事が一段落したのか、終わったのか、それとも面倒臭くなって投げ出してきたのか分からないが、今の時期さして三蔵の仕事は忙しくはない。 「笙玄、行ってくるな」 悟空は嬉しそうに大きく頷くと、手すりから身を翻した。 「ちゃんと回って下りて来い、サル」 ぺろりと舌を出して誤る悟空に、三蔵はため息を吐くと、踵を返した。 「あ、待ってよぉ」 悟空は、歩き出した三蔵の後を追ってゆく。 「なあ、どこ行くんだ?」 先を行く三蔵に纏わり付くように悟空が三蔵の周囲を跳ねるようにして歩いて行く。 空には白い雲。
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