新 茶

「はい、お茶」

にこにこと満面の笑顔と共に三蔵の前に差し出された湯呑み。
三蔵は怪訝な顔で湯呑みと悟空の顔を見比べた。

「なんだよ…変な顔して」
「いや…」

三蔵の表情に悟空の笑顔が消えて、代わりにちょっと拗ねた顔に変わる。
それで、三蔵は得心した。



自分で入れた茶だな…



小さく口角を上げて笑うと、三蔵は仕事の手を休めて湯呑みを取った。
途端、目の前の拗ねた瞳が、期待に輝く。



ちゃんと飲めるらしいな…



口元へ持っていけば温かい湯気に薫る緑茶の甘い香り。

「…新茶か?」

香りを味わい、一口飲んで持ってきた盆を抱きしめるようにして立っている悟空に問えば、

「うん。さっき、笙玄が買ってきたんだ。今年の一番茶なんだって」

嬉しそうに答える。
それに頷きながら三蔵はまた、甘く入れられた新茶を味わう。

「ねえ…どう?」
「あ?」
「美味しい?」
「ああ…」
「よかったぁ…」

三蔵の返事に大きく息を吐き、悟空はとろけるような笑顔を浮かべた。
三蔵はその笑顔に釣られて浮かぶ笑いを湯呑みに隠し、甘い今年の一番茶を堪能した。




end

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