with a smile |
風呂上がり、軽い息を漏らして悟空が水を飲む。 上下する喉を寝台に座って見つめながら、三蔵はタバコに火を付けた。 「あぁーっ、うっめぇ」 くうっと、息を吐き、まるで冷えたビールを一気に呷った後のような感嘆の声を上げて、悟空は濡れた口元を拭って笑った。 「どうかした?」 三蔵の気分の変化に敏感に気付いた悟空が小首を傾げて三蔵を振り返った。 「オヤジ臭ぇ」 三蔵の言葉に悟空はきょとんと、表情をなくし、すぐに風呂上がりで上気した桜色の頬を丸く膨らませた。 「何だよ、それぇ」 唇を尖らせ、むうっと怒ったような、拗ねたような表情で三蔵を睨んできた。 「あまりのオヤジ臭さに、百年の恋も冷めるってな」 そう言って、笑えば、 「俺の何処がオヤジ臭いんだよ?こんなピチピチの青少年を捕まえてぇっ」 腰に手を当てて、バスタオルを首にかけたまま、三蔵の顔を覗き込んでくる。 「水の飲みっぷり」 笑いを堪えて告げれば、 「はぁ…?!」 それはもうこれでもかと言う程、あっけにとられた顔を悟空は三蔵の前に曝した。 「ちょ…な、何だよ、もうっ!」 バカにされた事もわかるので怒りたいのに、三蔵の滅多に見ない屈託のない笑い顔に悟空は見蕩れてしまう。 すぐに拗ねる。 それは表情豊かに、三蔵は人と接している。 でも、と思う。 そう、最近とある事件で知り合った悟浄や八戒がそうだ。 だから、こうして自分にも無防備に笑い顔を見せてくれるのだと、悟空は良く理解している。 「もう、笑うなってば!」 口を塞ごうとした手が捉えられ、あっという間に悟空は三蔵に組み敷かれた。 「さ、さんぞっ!」 「オヤジ臭いピチピチ青少年」 楽しそうに言われて、軽く三蔵を睨めば、 「やらせろ」 と、きた。 「スケベオヤジ」 と、言い返せば、 「悪いか?」 目元を綻ばせたまま、三蔵が悟空の顔を覗き込んできた。 「オヤジ同士?」 問えば、一瞬考える素振りを見せて、 「スケベオヤジなぴちぴち青年」 と、返事が返った。 「信じられねぇっ!」 怒鳴った悟空の声は振ってきた口付けに呑み込まれた。
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