お昼寝 (2003.4.19/寺院時代)
「しゃんぞ、こえあげゆ」

花の差し出した小さなスミレ。

三蔵は小さなため息を吐くと、それを受け取った。

「さんぞ、悟空はまだ、起きないの?」

茅が、三蔵の膝を枕に眠る悟空の顔を覗き込む。

「…遊んでろ。起きたら教えてやる」

「うん!」

茅が花の手を引いて、野原へ駆け出してゆく。

その小さな姿を見送って、三蔵は悟空へ視線を移した。

大きめのTシャツから、昨夜咲かせた紅の華がかいま見える。

その華を認めて三蔵は薄く笑うと、悟空の手触りの良い髪を撫でた。

その優しい感触に眠っているはずの悟空の顔が、ゆっくりとほころぶ。

その悟空のかいなには、凪が身体を丸めて眠っている。

春から初夏へ向かう季節。

新緑の若葉が明るい陽ざしに揺れている。

長閑な時間。

幸せな時間。



たまにはいいか…



柔らかな光を抱いた紫暗が、また、ほころんだ。

やがて、静かな寝息が三つ。

しばらくして、幼さを宿した寝顔が五つ、ナナカマドの葉陰に揺れていた。




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