重陽の節句(1) (2003.9.9/寺院時代) |
所狭しと並べられた菊の花の鉢植え。 大輪の花からしたたり落ちるように流れる小菊の滝。 細い花弁を散らした嵯峨菊。 紅紫、黄金、白銀。
寺院の前庭を彩る様々な菊の花の海を僧庵の屋根から悟空は、見下ろしていた。 その菊の海を囲うようにたくさんの信者と僧侶達が立ち並んでいる。 やがて、菊水の地紋を淡い山吹色に染めた衣と黄金色の袈裟を纏った三蔵が、日よけの傘に守られて姿を見せた。
秋の陽差しに金糸が柔らかに光る。
まるで菊の花の化身と見間違う三蔵の美しい姿に、庭に詰めかけた人々は魅入られたように立ちつくす。 悟空は、僧庵の屋根からその姿をそれは嬉しそうに見つめ、頬を撫でる風に小さく呟く。 「綺麗だろ。あれが三蔵。俺の大好きな人」 その呟きに風は分かっているとでも言いたげに悟空の身体にまとわりついて、庭に向かって吹き下ろした。
突然の風に、三蔵の衣は舞い、金糸が閃く。
…悟空?
不意に三蔵が振り仰いだことに悟空は逃げ遅れ、結局紫暗の瞳と目があった。
やべっ…
肩を竦めると、僧庵の屋根を伝うようにして寺院の奥に姿を隠した。
その夜更け─────
菊酒を窓辺の床に座って呑む三蔵の傍らで、体中に薄紅の花を散らした悟空が微睡む姿があった。
四日後には後見の月。
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