ラブレターって何? (2004.2.13〜2.21/寺院時代) |
「なあ、ラブレターって何だ?」 昼食後、仕事に戻ろうとした三蔵の背中に悟空が訊いてきた。 「どうしたんです?」 笙玄が食器を片付ける手を止めて、心なしか引きつった笑顔を悟空に向けた。 「…んっと、昨日、友達の艮がラブレター書いたって言ってたから、それって何なのかなぁって」 デザートに出された白玉団子を頬ばりながら、悟空が説明した。 「ラブレターっていうのは、手紙の種類のことです」 笙玄は戸口に立つ三蔵へちらりと視線を投げた後、 「それはね、好きな人に自分の好きな気持ちを伝えるために書く手紙だからです。気持ちを込めて、好きという気持ちや愛していると言う気持ちを書き綴るからなんですよ」 笙玄の説明を理解したのか、していないのか、小首を傾げて悟空は考えている。 ぱたんと、扉が閉まる軽い音で、悟空は我に返った。 「あれ、さんぞ?」 笙玄の答えに残念そうに笑った。 「ラブレターって、本当に好きな人に宛てて書くの?」 何かを確認するように、笙玄に念を押す。 「はい。本当に好きな人に宛てて書く、手紙です」 フォークをくわえたまま、悟空はじっと、また考え込んでしまった。
執務室に戻った三蔵は落ち着かない。 悟空が誰かに宛てて、ラブレターを書くのだろうか? そのことを考えるだけでそわそわする。
三蔵が執務室でそわそわ落ち着かないでいる一方で、悟空は窓辺に腰掛けて思案に暮れていた。 「好きな人に好きな気持ちを伝える手紙…か」 悟空のこの世で一番好きなのは三蔵だ。 お日様みたいにきらきらしてる三蔵が好き。 そう、三蔵という存在が、人間が大好きなのだ。 そんなこと今更、改めて書くほどでもない。 悟空は深く深呼吸すると、反動を付けて立ち上がった。
細く開けた執務室の扉。
仕事、難しいのかな…?
などと悟空は思うが、本当は悟空のラブレター発言が気になって落ち着かないのだ。
どうしよう…
先程固めた決心が、少し揺らいでくる。
扉が開いた気配に顔を上げれば、悟空が何か思い詰めたような瞳で近づいてくるのが見えた。 「…さんぞ、邪魔した?」 椅子に座る三蔵の前に立って、悟空は恐る恐る訊く。 「何だ?」 それには答えず、質問を返す。 「あ…えっと…目、瞑って?」 返された質問に戸惑ったような表情を浮かべたかと思うと、ほんのりと頬を染める。 「いいから、目、瞑って」 僅かに潤んだ金眼が椅子に座る三蔵を見下ろしてくる。 暫く迷っているような気配がしたかと思うと、膝に重みがかかった。 「目、開けて」 言われた通り瞳を開ければ、すぐ目の前に悟空の黄金があった。 「あ、あのな…ラブレターって、自分の気持ちを伝える手紙なんだって。でも、でもな、俺…手紙なんて書いた事ねぇし、書くより言った方が早いって……そんで…」 そう告げる瞳は伏し目がちに、顔から首筋、耳、何もかもが桜色に染まって行く。 「それで?」 静かに告げられた三蔵の声に、悟空の全てがあっという間に朱に染まる。 「…そ、んで…だから…俺、三蔵が大好き。世界で一番好き」 最後の方は小声になって、恥ずかしさにぎゅっと三蔵の首筋に顔を埋めてしまった。 三蔵は悟空の行動と告白に、悟空に回した腕に力を込め、目の前に真っ赤に染まった耳朶に返事を返した。 「…知ってる、悟空」 と。
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