桜の頃の二人 (2004.9.2/寺院時代) |
世界が桜の薄紅色に染まる。 大地の子にその姿を誇るように花弁を震わせて、色鮮やかに春の蒼天に咲き競う。 「三蔵、桜、見に行こうよ」 静かな返事。 「なあ、綺麗なんだって」 宥めるように。 「今、一番綺麗なんだから」 少し苛ついて。 「なあ、三蔵」 眉間の皺が増える。 「な、な?」 ばんっと机を叩いて遂に三蔵がキレた。 「だって…綺麗な桜…今だけなんだぞ」 微かに潤んでくる金瞳で三蔵を見つめても、三蔵は怒りに染まった紫暗を向けてくるだけで。 「何だよ!三蔵のケチ、あんぽんたん!!」 がつんと執務机を蹴って、悟空はもう一度三蔵の怒声が飛ぶ前に執務室を飛び出していった。 「今のは悟空ですよね?何かございました?」 両手一杯の書類を抱えて三蔵の元へと近づく。 「何でもねぇよ…」 背もたれに身体を預け、煙草を三蔵はくわえた。 「そうですか?でも…」 いまいち納得出来ない顔付きで頷きながら、笙玄は書類を机に積んだ。 「おい、その山は何だ?」 にっこり笑って説明する笙玄の笑顔に、三蔵はため息と零す。 「その代わりって言ったら何ですが、そちらの書類は全て引き取りますので」 そう言って、言葉の継げない三蔵を尻目に笙玄は書類の山を交換すると、執務室を出て行った。
***
悟空は三蔵に見せたかった桜の木の下で、膝を抱えて蹲っていた。 はらり、はらりと舞う花びら。 それは悟空の心の寂しさを包むようで。 満開に咲き誇る花達。
何か、今の気分のまんまじゃん…
抱えていた膝を投げ出して、自嘲気味な笑いを零す。 「三蔵のバーカ」 声に出して三蔵への悪態を呟けば何となく気分が晴れた気がして、悟空はそのまま三蔵への悪態を吐いた。 「三蔵のあんぽんたん、ハーゲ、意地悪、ケチ。それからわからんちんの仕事虫…えっと…」 少し考えて、 「エロ坊主、生臭坊主に節操なしの…んと…」 突然の声に飛び上がるように振り向けば、眉間に皺を寄せた三蔵が悟空を見下ろしていた。 「それから何だ?」 怒りを含んだ声で再度、訊かれて、 「大好き!」 そう言って悟空は三蔵に抱きついた。 桜舞う春の日────
|
close |