初夏のある日 (2004.9.3/寺院時代)
匂い立つ青葉が初夏の陽差しに無機質な光沢を見せる。
夏に向かう陽差しは、春の柔らかさを脱ぎ捨て、肌に痛みを感じる程の強さをその身に纏う。
熱せられた大気がゆらゆらと、目の前の景色をぼやけさせる。
悟空は青々と茂った土手に寝転がって、色の濃くなった青空を見上げていた。

三蔵と一緒に寺院で暮らし始めて、今年、初めての夏を迎える。

あの春の日、憧れて見ているだけだった外へ出られた。
太陽よりも眩しくて、綺麗な世界が広がった。
連れ出してくれたのは金色の光。
与えてくれたのは紫暗の宝石。

けれど、実際に触れた世界は綺麗なことも汚いこともあって、楽しいこともたくさんあったが、嫌なこともそれと同じくらいあった。
それでもあの綺麗な金色はいつも輝いていて、綺麗で、優しかった。
だから、我慢できた。
耐えられた。
そう、あの金色の傍にいられたら何も恐いモノはなかった。
その存在全てが生きる支えだから。
何物にも代え難いから。
命すらいらないと思えるほど。

「三蔵…」

起き上がって、光の眩しさに手を翳せば、川辺に立つ陽炎。

今日は仕事が忙しいのか、朝から執務室に籠もったまま出てこない。
漕瑛の後に来た側係にまだよく慣れなくて、一緒に居ることが気まずい。
悪い人間では無いと判ってはいても、漕瑛の優しかった笑顔の下の気持ちを見てしまったから。
同じだとは思えなくても、身構えてしまう。
三蔵と二人なら何も考えなくても済むのに。

きらきらと揺らめく川面と太陽の熱に焼けて揺らめく大気。
青い草海原と青空。
そして、全てを照らす太陽。

悟空はまた空を見上げ、そのまままた、寝転がった。
風が雲を運んでゆく。

「三蔵、明日は暇だったらいいな…」

いつでもどこでも一緒に居て欲しいから。
望んでも叶わないけれど。
少しでも三蔵の傍に居たい。
煩いなら静かにしてるから。
いつまでも一緒にいて欲しい。

悟空は小さな笑顔を浮かべて起き上がった。
揺らめく大気の向こうで、大地の太陽が閃いた。




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