初夏のある日 (2004.9.3/寺院時代) |
匂い立つ青葉が初夏の陽差しに無機質な光沢を見せる。 夏に向かう陽差しは、春の柔らかさを脱ぎ捨て、肌に痛みを感じる程の強さをその身に纏う。 熱せられた大気がゆらゆらと、目の前の景色をぼやけさせる。 悟空は青々と茂った土手に寝転がって、色の濃くなった青空を見上げていた。 三蔵と一緒に寺院で暮らし始めて、今年、初めての夏を迎える。 あの春の日、憧れて見ているだけだった外へ出られた。 けれど、実際に触れた世界は綺麗なことも汚いこともあって、楽しいこともたくさんあったが、嫌なこともそれと同じくらいあった。 「三蔵…」 起き上がって、光の眩しさに手を翳せば、川辺に立つ陽炎。 今日は仕事が忙しいのか、朝から執務室に籠もったまま出てこない。 きらきらと揺らめく川面と太陽の熱に焼けて揺らめく大気。 悟空はまた空を見上げ、そのまままた、寝転がった。 「三蔵、明日は暇だったらいいな…」 いつでもどこでも一緒に居て欲しいから。 悟空は小さな笑顔を浮かべて起き上がった。
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