物干場にて (20049.4/寺院時代)
「笙玄、もう入道雲が出てる」

悟空が指さす先に見えるのは、今年初めての真っ白な入道雲。
抜けるような蒼天に白い絵の具で描いたような雲の頂。

「本当に。今年は夏の訪れが早いんですね」
「そうだね」
「ということは、暑い夏になるんでしょうか」
「さあ、わかんない。でも夏って暑いんだからいいじゃん」
「そうですね。暑いから夏なんですよね」
「うん」
「はい」

悟空と笙玄は顔を見合わせて笑い合った。
洗濯物の物干場の手すりにもたれて空を見上げる悟空の姿に、瞳を眩しそうに細めて、笙玄はぱんっと音を立てて洗濯物のシワを伸ばした。

「今日も良いお天気ですよ」
「うん」

悟空は頷き、ぽんっと、手を叩いた。

「そうだ、昨日ヒタキの巣を見つけたんだ」
「おや、それは珍しい」

笙玄の返事に悟空は嬉しそうに相好を崩す。

「雛がね、孵ったばかりでピィピィ鳴いてた」
「可愛かったですか?」
「うん!すっげぇ可愛かった」

そう言って笑う笑顔は輝きを増して、笙玄はそれに応えるように笑顔を深くする。
そしてまた、音を立てて洗濯物を干した。

「なあ、何で音立てるの?」
「はい?」

悟空がした問いかけの意味が分からなくて、笙玄はきょとんとする。

「だから、何で洗濯物干すのに一々音、立てるのかな?って」
「あ、これですか?」

問いかけの意味を理解して、不思議そうに笙玄の手元を見つめてくる悟空の目の前で、もう一度ぱんっと音を立ててみせる。

「うん、何で?」
「こうするとシワが伸びるんですよ」
「そうなの?」
「はい」

頷く笙玄の手は止まらず、洗い上がった洗濯物が次々と竿に干されてゆく。
白い三蔵の僧衣、白衣、足袋。
悟空のシャツ、ズボン。
二人の下着、タオル。
綺麗に現れて、初夏の陽差しの中で輝く。

白い雲に青い空。
それを背景に翻り、揺れる洗濯物。

風はうっすらと湿り気を含んで、夏がもうすぐ訪れる。




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