「あ、ッ…」 さっきかすった銃の付けた傷が熱を持って俺を苛む。
路地裏のうち捨てられた木箱の上に座って空を見上げれば、曇った夜空は今にも泣きそうな感じがした。
「くそっ」
悪態を付いてシャツの片袖を引きちぎり、傷口を縛る。
流れ伝った血に濡れた手をシャツの裾で拭って。
壁にもたれてまた、空を見上げた。
今回の仕事は三蔵とは別で。
珍しく単独の仕事だった。
それもごく簡単な暗殺の仕事。
街の顔役の組織のボスを消すこと。
敵対組織が依頼主。
こんな小競り合いに俺たちみたいなのを雇う気が知れないが、仕事は仕事だからちゃんとこなす。
それが油断だった。
些細な油断が、小さな奢りが死を招く。
自覚していたのに、つい。
でも、この仕事に「つい」なんてない。
油断と奢りが招いたのは余計な仕事。
人を殺すのなんか平気。
あの断末魔の痙攣や悲鳴、苦悶はゾクゾクするほど楽しい。
肉を切り裂き、抉って、真っ赤に染まるその時が至福。
今までたくさん、そう、数え切れないほど殺してきた。
それが俺の仕事。
それが当たり前。
ただ、その後は何故か吐くほど気持ち悪くて、身体が熱くて。
誰かに縋って無くては無意識に自分を切り刻んでしまう。
それをしないために俺は身体を繋いだ。
街角に立ち、売りのまねごとをして、この熱が収まるまで。
でも、今は傷が疼いて逸れ何処じゃないけれど。
大きく息を吐いて、俺は座っていた木箱から立ち上がった。
と、頬に当たる雨粒。
見る間に雨は勢いを増し、音を立てて降りだした。
「ああ〜もうっ!」
俺はがつんと木箱を思いっきり蹴り上げて、振り返った。
そこに、呆れた顔をした三蔵が立っていた。
「ドジ」
そう鼻で笑って、三蔵は踵を返した。
俺は一瞬、あっけにとられついで、腹が立った。
「悪かったな」
べっと舌を出して、しかめっ面をすれば、三蔵は立ち止まって俺に向き直った。
そして、
「帰るぞ」
って、顎をしゃくって。
俺は頷くしかなかった。
だって、迎えにここまで来たんだって何となく解ったから。
俺って大事にされてる?
なあんて、錯覚おこす。
でも、そんなこと聞いたらぶっ飛ばされそうだから訊かないけど。
さっきまでの苛つきはおさまっちまった。
うん、帰ったら三蔵に傷の手当てをさせる?
してもらうんだ。
とある日の深夜の出来事。
|