路地裏 (2004.10.6/parallel・from Gaze)
「あ、ッ…」

さっきかすった銃の付けた傷が熱を持って俺を苛む。
路地裏のうち捨てられた木箱の上に座って空を見上げれば、曇った夜空は今にも泣きそうな感じがした。

「くそっ」

悪態を付いてシャツの片袖を引きちぎり、傷口を縛る。
流れ伝った血に濡れた手をシャツの裾で拭って。
壁にもたれてまた、空を見上げた。

今回の仕事は三蔵とは別で。
珍しく単独の仕事だった。
それもごく簡単な暗殺の仕事。
街の顔役の組織のボスを消すこと。
敵対組織が依頼主。
こんな小競り合いに俺たちみたいなのを雇う気が知れないが、仕事は仕事だからちゃんとこなす。
それが油断だった。

些細な油断が、小さな奢りが死を招く。

自覚していたのに、つい。
でも、この仕事に「つい」なんてない。
油断と奢りが招いたのは余計な仕事。

人を殺すのなんか平気。
あの断末魔の痙攣や悲鳴、苦悶はゾクゾクするほど楽しい。
肉を切り裂き、抉って、真っ赤に染まるその時が至福。
今までたくさん、そう、数え切れないほど殺してきた。
それが俺の仕事。
それが当たり前。

ただ、その後は何故か吐くほど気持ち悪くて、身体が熱くて。
誰かに縋って無くては無意識に自分を切り刻んでしまう。
それをしないために俺は身体を繋いだ。
街角に立ち、売りのまねごとをして、この熱が収まるまで。

でも、今は傷が疼いて逸れ何処じゃないけれど。

大きく息を吐いて、俺は座っていた木箱から立ち上がった。
と、頬に当たる雨粒。
見る間に雨は勢いを増し、音を立てて降りだした。

「ああ〜もうっ!」

俺はがつんと木箱を思いっきり蹴り上げて、振り返った。
そこに、呆れた顔をした三蔵が立っていた。

「ドジ」

そう鼻で笑って、三蔵は踵を返した。
俺は一瞬、あっけにとられついで、腹が立った。

「悪かったな」

べっと舌を出して、しかめっ面をすれば、三蔵は立ち止まって俺に向き直った。
そして、

「帰るぞ」

って、顎をしゃくって。
俺は頷くしかなかった。
だって、迎えにここまで来たんだって何となく解ったから。

俺って大事にされてる?

なあんて、錯覚おこす。
でも、そんなこと聞いたらぶっ飛ばされそうだから訊かないけど。
さっきまでの苛つきはおさまっちまった。

うん、帰ったら三蔵に傷の手当てをさせる?
してもらうんだ。




とある日の深夜の出来事。




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