筋斗雲 (2005.1.23/旅の途中)
「三蔵はでは、留守番、ということでよろしいですね」

にっこりとそれは嬉しそうな満面の笑顔を湛えた八戒の顔を三蔵は何も言わずに睨みつける。

「仕方ないっしょ、人間は乗れないってんだから」

悟浄が気の毒そうにそんな三蔵を見やる。

「だって、仕方ないでしょう。悟空の筋斗雲は”普通の”人間は”非常に重たくて”乗れないというのですものね」
「う…うん」

八戒の言葉に三蔵の纏う空気の温度が目に見えて下がる。
それを肌で感じながらも、本当にそうなのだから悟空も頷くしかない。

「じゃ、そういうことで」

八戒は悟空の腕を取ると、悟浄を促し部屋を出て行った。
部屋を出て行く寸前、振り返った悟空が泣きそうな顔をしたのを視界の端に見て、三蔵はため息を吐いた。

「…バカが…」

くわえていた煙草を灰皿に押し付け、三蔵は小さく笑った。




その夜、寝かせてもらえなかった子供が一人。
そして、出発が延びたのも事実。




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