◇◇ 悟空ver. by みつまめ ◇◇
「あのさぁ、八戒。ココだけの話なんだけどさ。」
「なんですか?」
「牛魔王を倒したあとの事って、考えた事ない?」
「まぁ・・・たまには・・・ね。」(笑)
「俺さぁ、思うんだけどね。
三蔵が経文を取り返して、めでたく討伐できたとするじゃん?」
「ええ」
「そのあと、俺がその経文・・・三蔵のも一緒に盗って逃げたらどうなると思う?」
「・・・・・・悟空?」
「三蔵って、今までも仕事とか、経文奪回とか、お師匠様の事とか、いっぱい考えなきゃいけない事があってねぇ。
いっつも俺の事は後回しになっちゃうんだ。」
「――――」
「だからさ、もしも最後の最後で――俺に経文を盗られたとしたらさぁ・・・。」
「ずっと、俺の事を追って来ると思わねぇ?」
夜目にも綺麗な金色の瞳が、獲物を見つけた鷲のようにキラリと輝いた。
「悟空は、・・・三蔵を裏切りたいんですか?」
「違うよぉ〜。だけど、たまぁ〜に、考えちゃうんだ。」
「・・・・・・。」
「あの三蔵がさぁ、何もかも放り出して、俺の事だけ考えて、俺の事だけ追い掛けてくれるんじゃないか?って。
――なぁ、それって、すっごくゾクゾクしねぇ?」
幼い顔が、悪戯の成功を思い浮かべるようにして――嬉しそうに笑う。
「憎まれるかも・・・しれませんよ?」
「いいよ。俺の事しか考えられないくらい、強く憎んでくれるんならv」
ニコニコと――無邪気に笑う唇から零れるのは、鋭い爪を隠した言葉――。
「・・・お願いですから、考えるだけにしてくださいね?」
「うん、だから、たま〜に考えちゃうだけなんだってば。 ほら、旅だってまだ終わってもいないんだし!」
「それは――考える時間が十分にある・・・というようにしか、聞こえないんですけどねぇ・・・;」
「だからさ、内緒な?」
「・・・内緒、ですね。」
「うん。――八戒って頭いいから好きだよv」
「誉めて貰った・・・って事にしておきますね?」
ひどく重たい溜息が、風に消えた。
「あぁ、でも。
ホント・・・ゾクゾクするだろうなぁ・・・v」
あの――冷たい紫暗の瞳に射抜かれる、その瞬間――。
『三蔵』が俺だけのモノになる。
あの綺麗な魂が、擦り切れるまで――ずっと。
・・・ねぇ。
逃げ続けてみたくならない?
*****
◇◇ 三蔵ver. by michiko ◇◇
「おい、ここだけの話だ。聞いたら忘れろ」
「何ですか?」
「お前、この旅が終わった後、サルが何か企んでやがるのを知っているか?」
「はい?」
三蔵の言葉に、八戒が怪訝な顔をする。
「企んでやがるんだよ」
「悟空が、ですか?」
「ああ…」
「企んでるっていうのはちょっと違うか…そうだな、考えてるってところだな」
「あの…三蔵?話が見えないんですけど?」
「ああ、それでいい」
「三蔵」
八戒の顔が困惑に染まる。
「無事、片づいたらな、俺は行くからな」
「……?」
「あいつが馬鹿なこと考える前に、あいつの前から消えるんだよ」
「悟空を置いて?」
「決まっている」
薄く浮かんだ口元笑みに、八戒は先日の悟空との会話を聞かれたのかと、背筋が寒くなる。
「追いかけますっていうか、探しますよ?」
「ああ、追ってくればいい。探せばいい。あの魂かけて、俺を捜せばいい。経文も関係ない。ただ、あいつの前から俺は消えるんだよ」
「探さないかも知れませんよ?」
「探すさ。探さずにはいられないんだよ、あいつは」
「憎むかも知れませんよ?」
「そうだな…今以上にその存在をかけて俺を捜すのならそれも悪くねえ」
「三蔵…」
「やってみるのも楽しいだろうが」
「それ、悪趣味って言いません?」
「さあな…」
「悟空を泣かせることだけはしないで下さいね」
八戒の言葉に、三蔵は口角を上げて見せただけだった。
あの輝く魂全て、今以上、その存在全てを擲って求めればいい。
俺はお前の呪縛─────
*****
◇◇ 悟浄ver. by みつまめ ◇◇
「なぁ、ちょっと聞いてくれる〜?
俺ンとこに、生臭ボーズと動物が一匹いるんだよねぇ。」
「・・・・・・グ・・・ッ。」
振り回した錫杖が、空を切った。
「ンで、よりにもよって二人して物騒な内緒話なんかしてる訳だよ。
――え? なんで俺が知っているかって?
んなの、八戒に云えば俺に八つ当たりが来るんだよぉ〜!
すぐにわかるって〜のッ!」
「うぅ・・・。」
「ったく、人を巻き込むのもいい加減にしろ!!って思うよなぁ? オッサン!」
「――――グァ、アァ・・・。」
手元に戻ってくる刃先で、牛魔王サイドの刺客をまた一人引き裂いて倒す。
「だからさ、牛魔王さんには是非頑張って貰って――アイツ等まとめて、死なない程度にボコボコにして欲しいわけよ?
ソレくらいサービスしてくれたって、罰は当たらねぇーだろ?
そんで、包帯グルグル巻きのカッコで暫く頭冷やせば、ちったぁ〜マトモに戻ると思う訳だ?」
「グハッ、ハッ・・・・・ッ;」
「まぁ、その間に俺は逃げさせて貰うけどさ。」
土埃を撒き散らして、背後の男が足元に転がった。
「――だって、そうだろ?
あ〜〜んな、生臭坊主とサルの面倒なんか、最後まで見てられるかってんだ!!」
「なぁ?」
―――グシャリ。
顔面を踏みつけて、ついでに遠くへ蹴っ飛ばした。
「あぁ、悪いね?
返事は最初ッから期待してないからさ、俺。
けど、たまにはこーやって愚痴ってないとさぁ、俺までビョーキになりそうなのよ。」
吐き捨てるように呟いて「お手上げ」のポーズをとると、悟浄は大げさに空を仰いでみせた。
――信じてないけど、カミサマ、ホトケサマ。
あの二人を出会わせた責任、あんたが取ってくれよな?
頼むよ。ホント・・・。
*****
◇◇ 八戒ver. by michiko ◇◇
「ちょっと、聞いてくださいます?」
小さな葉が微かに震える。
それににこりと頬笑んで、八戒は言葉を続けた。
「今回のお仕事が終わった後、悟空は三蔵の経文を持って逃げれば三蔵は自分のことしか考えられなくなる…って、そんなこと考えてるって言ってましたが、三蔵の方が一枚も二枚も上手なようなんです。
でも、どうして二人とも僕に言うんでしょうねえ…。
そりゃ、二人が何かしでかした時、その原因に気付くのも、愚痴を聞くのも、仲介をするのも全て僕ですけどね。
みなさんの保父なのは自他共に認める所では在りますが、僕は保父であってお悩み相談室でも、カウンセラーでもないんですよ。
それなのに、聞きたくもない話を聞かされる。
それが相談ならいいんですよ。解決策を考えることも出来ますから。
でも、のろけは嫌です。
どれだけあの二人が好き合ってるとか、お互いが大事だとか、そんなの毎日24時間見てりゃ解ります。
ええ、僕は鈍くないですから。
だからといって、今回のは酷いですよ。
誰かに言いたい気持ちは十分理解できますが、それを僕に押し付けないで欲しいんですよね」
八戒は、風に揺れる丸い葉に触れて、嘆息した。
「聞くだけで後は忘れろとか言いますけど、あんな話を忘れるなんて出来ません。
本当に、あの二人は僕のストレスの元ですよ。
お陰で大事な悟浄にまた、八つ当たりです。
あの人は優しいので受け止めてくれるのですが、その内殺してしまいそうな自分が怖いです。
もし、そんなことになったらあの二人を許しませんから。
ええ、許しませんとも。
このこと、覚えておいてくださいね」
にこりと、底知れない笑みを小さな葉の茂み投げかけると、八戒は大きく伸びをした。
「何だか、王様の耳はロバの耳の家臣の気分ですねえ…ま、これも経験ってやつでしょうか」
そうでしょ?と、茂みの葉に触れて、八戒は踵を返したのだった。
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