水色のマグカップ (割れたカップ番外編/2002.9.4/寺院時代)
恨めしげな視線を三蔵は、執務机の上の水色のマグカップに注いでいた。



綺麗な水色のヒマワリの絵の名前入り、マグカップ。



あんまりにも拗ねて、怒って騒ぐ小猿と落ち込んで仕事が手につかない笙玄の仲をらしくもなく、取り結ぼうとして買った。

同じものを三つ。
割れた時の予備にと、買ったはずだった。




そう、あの店員が悪いのだ。

「今、開店記念でお買い上げの商品にお名前を入れさせて頂いています。どうなさいますか?」

などと言われ、拗ねた悟空が喜びそうだと、魔が差したとしか言いようがなかった。

「入れてくれ」
「では、お客様のお名前でよろしいですか?」
「いや、違う名前を」
「はい。でしたらこちらの紙にお書き下さい」

差し出された紙に『ごくう』『しょうげん』と書いた。

「もう一つには何も入れなくてよろしいんでしょうか?」

そう聞かれれば、入れるしかなく。
気が付いた時には、目の前にそれぞれの名前がひらがなで刻印されたマグカップが並んでいた。



寺院への帰り道、激しく後悔したのは言うまでもなかった。

寝所の何処かに隠して、永遠に封印するはずだったのに。




そのマグカップは、今、美味しそうな緑茶を抱いて三蔵の目の前にあった。

使わないと、言い切れない自分が情けなかった。

三蔵は、眉間の皺を深くしながら、諦めたように水色のマグカップに手を伸ばすのだった。 




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