あなたに… (2005.6.29/寺院時代)
風が誘うに任せて口ずさむ謳。

こぼれ落ちる旋律は、どこか懐かしくて。

優しい時間を思い出す。

少し舌足らずな口調が紡ぐ言葉は、温かく、奏でる旋律はどこまでも透明だった。

子供奏でる声(うた)に、木々の梢は柔らかく揺れ、大地は仄かな色に染まる。




仕事を抜け出して悟空の元へ来た三蔵は、青い草海原で、蒼天を抱くように謳う悟空の姿に見惚れた。

そして、改めて思う。

ああ、この子供は心から大地に愛され、自然に慈しまれているのだと。

大地が、自然が子供を取り戻そうとするその想いが理解できると。



だが、と思う。



大地と自然の宝であると同時に、子供は三蔵の宝なのだ。

冥い道を照らす一筋の光りなのだ。

何物にも代え難い存在なのだと。



あの金色の至宝は、俺のなんだよ



三蔵は小さく喉を鳴らすと、木立の影から悟空の元へ歩みを進めた。

「悟空」

呼べば、大地の愛し子が振り返る。

大地が、自然が伸ばす手をすり抜けて、三蔵の元へ駆けだしてくる。

大輪の花綻ぶ笑顔を浮かべて。




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