何でも拾ってくる小猿(2) (2005.7.24/寺院時代)
何でも拾ってくる養い子。
そう、子犬、子猫は云うに及ばず、小鳥、猛禽類、鹿、狸…山に生息可能な動物、そして、この間は狸の妖怪、果ては人間を拾ってくる。
まあ、手に負えるものも負えないものもあるが、おしなべて怪我していた、迷っていた、泣いていた…納得できる理由で拾ってくる。

が、今回、その腕に抱かれた緑色のそれも頭に綺麗な皿を載せ、嘴のような口元、背中に亀のような甲羅、指の間に水かき…どう見てもこれは、あれだ。

だが、一体どこで拾ったというのだ?

寺院の中に運河はある。
だが、鯉や鮒、カエルなどの人畜無害なものが住みついてるだけで、コイツが棲んでるわけがない。

なら、長江か?

それとも、どこぞの川っぷちで干からびかけたのを拾った…そんな訳でもないらしい。
寝所の入り口で、そいつを抱きしめ、金眼を潤ませて立っている姿はとても稚く、可愛い風情で、庇護欲を掻き立ててくれるが、如何せん、腕の中のそれはちょっとゴメン被りたい。

三蔵は大きなため息をひとつ吐くと、地を這う声音で最終通告を子供に告げた。

「今すぐ、即刻、元居た場所へ返してこい」

その言葉に子供は、大きく肩を震わせ、まろい頬を膨らませる。
そして、嫌だと首を振り、三蔵を睨みつける。
潤んだ瞳が、傾きかけた陽差しに金色の光を放つ。

「ここでは生きられねえんだ」
「俺は生きてる」
「そいつにはここの清浄な空気は毒だ」
「でも…」
「悟空」

腕の中のそれは、不思議そうな表情で悟空の顔を見上げ、視線が合うと嬉しそうに笑った。

「だって…」
「親が待ってる。迷子だったのなら尚のこと捜してるはずだ」
「三蔵…」
「返してこい」
「………っぅ…」

納得できなくて、泣いてしまった悟空の頬を小さな水かきのついた手が宥めるように触れる。
それに悟空は困った様な複雑な顔を向けることしか出来なくて。

「悟空…」

三蔵の促す声に頷くしかなくて。



夏の盛りの小さな出来事───




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