孤独なイキモノ (2005.10.12/外伝)
音もなく雨が降る。

世界は静かだ。
吐息さえ顰めた無音の薄闇。

それは、僅かに張り出した岩棚の下に膝を抱えて蹲っていた。
一度、ふるりと身体を震わせて、それは空を見上げた。

重くたれ込めた雨雲。
その雨雲から透ける微かな陽の光。
全てを包み込み、濡らす銀糸。
世界は煙るように霞んで、ひっそりとその身を隠す。

まるでそれの存在から隠れるように。
それに触れるのを拒むように。
世界はそれから逃げるように息を潜める。

無音に僅かに眉根を寄せ、見上げていた瞳をそれは伏せた。
伏せた睫毛にガラス粒のような雫が跳ねる。
青い影を頬に載せて、それは自身でもよくわからないため息をついた。
もやもやとした思いの翳りから逃げるように。
その胸に湧く微かな想いに気付かないふりで。

それは抱えた膝に顔を埋めて、ふと、通り過ぎた冷たさに身体を震わせた。

誰も触れてはくれない己を思って。
誰もが背中を向ける己を思って。

雨雲の隙間から射す一筋の陽の光のように、いつかそれをあるがまま受け止めてくれる誰かと出逢う。

それは願い。
それは希望。
いつか叶うはずの…。




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